木馬の中からアキレウス
〜映画「トロイ」を見る〜


5月15日、有楽町丸の内プラゼールにて、「トロイ」の先行上映を見てきました。最近頻繁にCMも放映されて おり、めったに見られない古代ギリシア関連の映画ということで、かなり期待して見にいってきました。先行オールナイト ということで、以前見にいった「王の帰還」の困難を思い起こし、ひょっとしたら見られないかも知れないな、と思いながら 映画館に行ってきましたが、前の方なら席が空いているということで、前の方の席のチケットを買って映画館へ向かいました。

そして、映画館に入ってみるとかなり混んでいました。お客さんの割合としては、女性がかなり大勢いたように感じましたが、 やはり出演している俳優さんのせいなのかな、と思いました。ふつうギリシアネタでこんなに人は来ないだろうし。そして、 上映開始時刻までの空いている時間を使って軽く食事をとったりくつろぎながらぼーっとしていました。しかし座席は正直な ところ、余りよい座席ではありませんで、スクリーンを見上げながら映画を見ることを余儀なくされました。そして、この 座席で見ていたことがその後の不調につながっていくことになります。首が疲れるの何のって・・・。

そして上映時間を迎えて映画が始まった・・・・はずですが、どうもはじめのあたりの話の記憶が全く残っていません。どう やら、睡眠時間2時間のつけがでて眠ってしまったようです。そして、気がついたらすでにギリシア軍のたくさんの軍勢が トロイアに向けて攻めてきているところでした。これは失敗したなあ、もう一度見に行くべきかどうか、映画を見ながらしばし 悩みました。まあ、いちおうトロイア戦争関連の話は頭に入っているからいいか、ということでそのまま見続けましたが、その後 驚天動地のシーンをいくつか目にすることになります。

物語はいちおうトロイア戦争なのですが、イリアスをベースにして、ずいぶんともとの物語をいじくっているような感じです。 そもそも、物語のかなり早い段階でメネラオスとアイアースが戦死してしまったりするので、おいおい、ここで死んだら話が 違うし、ギリシア悲劇のいくつかの作品は作れなくなっちゃうでしょうが、と脳内一人突っ込みを入れてしまいました。また、 イリアスではアキレウスの親友となっているパトロクロスがアキレウスの従兄弟ということになっていたりしますが、これは 伝承によればそういうとらえ方もあるようです。よく聞く話ではパトロクレスはアキレウスの親友として紹介されていますが、 まあ、それでもいいかな(というより他にもっと凄いことがあるし)。また、戦争の展開を短い期間に無理矢理押し込んでいる ような感じがしました。トロイア戦争って10年超しの長丁場なのですが、「イリアス」が扱っている50日間に無理矢理 押し込めようとしているかのようです。なんせヘクトルの死後、服喪期間の12日を過ぎたところでいきなり木馬の計略が でてきますし・・・・。

このように、もとの物語とはずいぶんと設定や展開が異なっている映画「トロイ」ですが、最後のトロイア落城のところでも 大きく変わってしまっている箇所があります。ギリシア軍総大将アガメムノンは城内で殺害されるし、トロイア側の王族女性 達は無事に脱出してしまうし、戦争のきっかけを作ったパリスは生存しているうえ、ヘレネはどこかに消えてしまいます。 アガメムノンがこんな所で死んでしまったら、この後「オレステイア」3部作ができなくなってしまうでしょうが・・・。 そしてなにより目を疑ったのは、トロイの木馬の中からなんと主人公アキレウスが出現したことです。アキレウスは木馬の計略 が行われた時点ではすでに死んでしまっているはずなのですが、なぜか生きていて活躍しています。やはりこの辺は映画会社の 都合で変えられてしまったのでしょうか。それにしてもひどいと思います。ちなみにトロイア落城のシーンではアイネイアース が出てきていましたが、これはまあお約束、ということで(トロイアから逃げ延びた彼はローマ建国伝説に関係しますので)。

このように文句は色々言っていますが、アクションシーンに関してはかなり迫力があると思います。また、アキレウスとヘクトルの サシの勝負はちょっとかっこよかったかなとおもいます(戦いの展開がちょっと違うのはさておき)。主演のブラッド・ピットは、 かなり体を鍛えて作り上げてきたという感じで、あんなに腕が太くて胸板が厚かったっけ、などなど考えてしまいました。パリス役 のオーランド・ブルームは情けなさ満点といった感じですし、役者さんは結構イメージに合ってるな後思いながら見ていました。 しかしかつての旅の仲間が敵味方に分かれて戦っているとは・・・・(笑)。で、映画自体については神話的要素をごっそり削って しまって人間中心の物語にするようなことはしないほうが良かったのにと思っています。世間ではこの映画、史劇ということになって いるようですが、「指輪物語」とかあの手のファンタジーと同類の話なのだからいっそフィクションと割り切って神と人がともに いる世界として描いた方がよほどおもしろかったと思います。元来が神話なのに中途半端に歴史映画っぽくする物だから、こんな 変な映画になるのではないかと。不死の者(神)と死すべき者(人)が共に生きる世界で、死すべき者たちが運命に翻弄されつつも 生きるというところがホメロスの叙事詩の世界だと思うけれど、それが全くなくなってしまって代わりに半端な人間ドラマが 延々と描かれると正直眠くなってきます。神を排除するというのであれば、神話の原型となった出来事を探っていくというアプローチ であればまだしも、神話なのか歴史なのかわからない時代を無理矢理に歴史劇にしたのがそもそもの間違いだと思います。 もとがよい物語であっても、いじくり方が妙だとこうもまあ変なことになるんだなと言うことがよくわかりました。


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