「黄金のアフガニスタン」展をみる


現在、東京国立博物館にて開催中の「黄金のアフガニスタン」展を鑑賞してきました。サブタイトルに「守りぬかれた シルクロードの秘宝」とつけられているように、ソ連によるアフガニスタン侵攻、タリバン政権の支配とその崩壊、 その後の不安定な政治状況という困難が続くアフガニスタンで様々な人々が命がけで守ってきた古代文明の遺産が展示 されていました。

展覧会では、アフガニスタンにおいて発見された4つの遺跡、テペ・フロール、アイ・ハヌム、ティリヤ・テペ、ベグラム 遺跡の出土品と、混乱のさなか流出し、現在日本で保管されている「アフガニスタン流出文化財」からえらばれたものが 展示されています。

最初のテペ・フロール遺跡は1966年に多くの金銀器が発見されたことがきっかけで存在が判明した遺跡です。もっとも、 発見当初現地の人々は出土品をぶち割って山分けしてしまうなど、最初の発見がそもそも正式な発掘でなかったために実態 はよく分からなくなっている遺跡のようです。その後の調査で人骨が出土していることから墓の副葬品だったのではないか とは言われています。

この遺跡に関してはメソポタミアの要素に似たひげの生えた雄牛がかかれていたり、幾何学紋様、イノシシがかかれている 器の断片が3つ並んでおり、数は少ないのですがメソポタミアと何かしらの接点があったことがうかがわれます。実際、 メソポタミアで用いられたラピスラズリの鉱山に近い遺跡だと言うことなので、物や人の流れとともに図像も伝わったのかも しれません。

次に来るのは、アイ・ハヌム遺跡です。この遺跡については、別の箇所でそれなりに説明を書いたので割愛しますが、名前は 聞いたことがあるが実際にそこの遺跡から出土した遺物をきちんとみた記憶はなかったため、数々の有名な遺物を実際に見る ことができたのは非常にうれしかったです。そもそも、展覧会の名前から,アイ・ハヌム遺跡の遺物が来るとは思っていません でした。(参考):う ちのサイトに以前掲載したア イ・ハヌム遺跡について

喜劇の面のような樋口、デルフォイの格言を刻んだキネアス廟の像の土台、茶屋に転用されていたコリントス様式の柱頭、 そしてギリシアや西アジアの様々な神々が同一場面に描かれた「キュベレー神の円盤」、様々な書籍で取り上げられ、そこで みた数多くの遺物の実物が展示されています。古代ギリシア史、ヘレニズム史に関心のある人には是非見ていただきたい コーナーです。

そして、この展覧会で前面に出されているのが、ティリヤ・テペ遺跡の出土品です。1978年(ソ連侵攻の直前の時期です)、 2万点を超える金製品が出土し、バクトリア王国の滅亡からクシャーン朝成立までの時期について調査する上で非常に重要な 遺跡とされ、出土品は「バクトリアの黄金」として知られるようになりました。

この遺跡からは、遊牧民の王族の者とされる6つの墓が発見されています。被葬者の埋葬の様子からは格差があったことが うかがえますが、黄金でできた装身具を身にまとった男1人、女5人の墓から、この地域における文化の伝播の一端がうかが えます。パルティア風金貨や古代ローマの貨幣、アキナケス剣、法輪を刻んだメダルなど、地中海世界から西アジア、北方 の遊牧民世界、南アジアの各地の要素をうかがわせる遺物が発見されています。また、この遺跡から発見された冠のデザイン は朝鮮半島で発見される王冠ともにており、東アジアへの文化の伝播についても色々と考える材料を与えてくれると思います。

墓の副葬品ということで、装身具などはパーツごとにばらばらになっており、小さい遺物が多いので、見るときにはかなり 接近しないと厳しいですが、苦労する価値は十分にあると思います。質・量ともにこの展覧会の柱の一つと言ってもいいも のです。

ティリヤ・テペとならんで、質量ともに豊富な遺物が並んでいるのはベグラム遺跡の遺物です。かつてアレクサンドロスの 東征に関連して立てられた都市がこの地にあったともされ、その後も、マウリヤ朝、インド=グリーク朝の支配をうけ、 クシャーナ朝の時代には王宮も築かれたこの地の調査は20世紀前半より行われています。今までの3つの遺跡と比べると調査 期間も長く、色々と研究も進められているようです。

この遺跡の遺物からは、カラフルかつデザインに凝ったローマン・グラスの器が数多く展示されているほか、ギリシアやエジプト の神々などをかたどった青銅像、なまめかしい女性像など古代インド芸術の要素を感じさせる象牙製品等が並べられています。 クシャーナ朝は陸上交易だけでなく、ローマとの海上交易路がつながっていて栄えたと言うことが知られている王朝ですが、 具体的な遺物によりそれが示されると非常にわかりやすくなります。

最後には、アフガニスタンから流出し、現在日本で保管されていた遺物がいくつか並べられていました。以前、これに関しては 展覧会で見たことがあり、アイ・ハヌムのゼウス像の足、そして仏教関係の遺物がいくつか並べられていました。今回、これら の遺物がアフガニスタンに返還されることになりますが、これからも何とか守り続けてほしいものです。

今回の展示物は、激動のアフガニスタン現代史のなかで,人々が全力で守り続けてきた貴重な遺物です。こうした遺物を見ると、 アフガニスタンの政治的安定、そして復興をねがわずにはいられませんが、一時的な盛り上がりだけでなく、恒常的に関心を持ち、 何とか復興を支援する方法があれば何とかしたいという気持ちになったのは私だけではないと思いたいです。


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