ハルパゴスの物語
〜「ヒストリエ」第8話より〜

(第8話の概略)
エウメネスは友人達と町をほっつき歩いているときに、スキタイ人の奴隷トラクスにであいます。また別の日に、 エウメネスは再び彼に出会いますが、何やら親近感を感じているようなエウメネスの様子が描かれています。 トラクスに初めてであったあと、町のはずれで友人達とエウメネスが語り合う中で、スキタイ人のことが話題に 上がり、その中でハルパゴスの物語が語られることになります・・・。そこでは以下のような物語が語られました。

ハルパゴスはメディア王国の重臣の一人であり、当時のメディア国王アステュアゲスに忠実に仕えていました。 しかしある時、王の命令を最後までやり遂げず、そのこと故に王から凄惨な仕打ちを受けることになります。 その仕打ちとは、宴会の席で王はハルパゴスのみ特別な肉を用意したとして、家来に食材の入ったかごを持って こさせて中身を見るようにしむけます。そしてハルパゴスがおおいを取って目にした物は13歳の息子の亡骸でした。

アステュアゲス王がハルパゴスに対して行った仕打ちは、かつてメディア王国に逃げてきたスキタイ人達が当時 のメディア王に行った仕打ちをまねた物でした。はじめはスキタイ人達を親切に迎えた当時の王が、狩りで獲物 が捕れなかったことを理由にスキタイ人にひどい仕打ちをしたために、スキタイ人達は一緒に狩りをしていたメ ディアの王子の一人を殺し、その肉を王に食わせるという仕返しをしたのでした。それと同じ事をハルパゴスに 対して行ったのでした。

このような仕打ちを受けたハルパゴスですが、その後も変わることなく何年も忠勤に励み、王も彼を信用して重 用しつづけました。そんなときにペルシア人キュロスがメディア王国に反旗を翻します。王はこれを撃つべくハ ルパゴスを派遣するのですが、ここでハルパゴスは裏切ります。表向きは忠実に仕えつつ、裏では色々と手を回 してキュロスの蜂起を催していたのです。


以上のような話がハルパゴスの物語として漫画の中で語られています。この話の出典は歴史の父ことヘロドトスの 「歴史」第1巻ですが、ヘロドトスの記述には漫画の中では語り尽くされていない出来事が数多く伝えられています。 他に描かれていることは次の通りです。

  • ハルパゴスの任務
  • まず、ハルパゴスの任務とは何だったのか。漫画では全く触れられていないのですが、アステュアゲスの娘マンダネ とペルシア人カンビュセスの間に生まれた子を殺すことでした。アステュアゲスは娘マンダネが放尿して町中にあふれ、 そしてアジア全土に氾濫する夢を見ます。そして夢占師の助言に恐れをなした彼はメディア人の有力者ではなくペルシア人の カンビュセスに嫁がせます。しかしマンダネが嫁いで間もない頃、アステュアゲスは今度はマンダネの陰部から葡萄の木が生え てアジア一帯を覆い尽くすという夢を見ます。この夢について相談したところ、夢占師はマンダネの子がアステュアゲス に取って代わり王となると予言したため、アステュアゲスはマンダネの子を殺すようハルパゴスに命じたのでした。

    これに対し、ハルパゴスは実際にそのようなことを行った場合、高齢で現在男子のいないアステュアゲスの後を継ぐのは マンダネということになり、その時にマンダネの子供を殺していると自分が不利になると判断し、他の人間に手を下させ ようとします。その時ハルパゴスは王の牛飼いミトラダテスに子供を山に捨てて殺すように命じます。しかしこの時に 妻と色々話し合った結果、子供を殺すことを拒否したミトラダテスは妻が死産した子供を代わりに山に置き、その子の死骸 を検分させ、マンダネの子供は自分の下に引き取って育てたのでした。そして、この子供こそアケメネス朝ペルシアを建国 するキュロスとなるのです。

  • キュロスとハルパゴス
  • キュロスは牛飼いの子として育てられましたが、10歳になったキュロスは村で遊び仲間の中で王様役になり、遊びの 中で彼の言うことを聞かなかったメディア人名士の子をひどく痛めつけます。そのことを王に訴えたことがきっかけ となり、牛飼いを脅すなどして調べてみたところ、キュロスの素性が明らかになります。ハルパゴスも当然王の怒り を買いますが、この時ハルパゴスは牛飼いの姿を目にとめたこともあり、あえて真実を語りました。この時はアステ ュアゲスも思いなおし、キュロスをひきとるとペルシャの両親のもとに戻してやりました。しかし自分の命令を守ら なかったハルパゴスに対しては、表向きは怒りを隠しつつ、彼の息子を殺してハルパゴスに騙して食べさせたのでした。 ハルパゴスはキュロス生存が王にばれたにもかかわらず、事態が図らずも良い方に進んだように思って喜んでおり、 王に息子をよこすように言われてその通りにしたところ、招かれた宴席にて自分の息子の肉を食わされる羽目になるわけです。

    その後も忠勤に励むハルパゴスは実は復讐する機会をねらい、キュロスの受けた災難(殺されかけた)も自分に降りかかった 災難と同じような物と考え、成人したキュロスに贈り物を贈って見方に引き込もうとしています。ハルパゴスは重臣達の間での 工作を完了すると、キュロスを王への復讐の見方として引き込もうとします。このときウサギの腹の中に密書を隠し、猟師の 格好をさせた部下にもたせてキュロスに届けさせるという芸当を見せています。ハルパゴスの密書を受け取ったキュロスは アステュアゲスに対する反乱に立ち上がるのです。結局、ハルパゴスの裏切りなどもあり、キュロスはメディア王国を滅ぼし、 ハルパゴスは見事に復讐を果たすわけです。

    その後のハルパゴスは、キュロスの片腕としてアケメネス朝ペルシアの勢力拡大に尽力することになります。キュロス がリュディア王国のクロイソスと戦ったときには、強力なリュディア騎兵隊に対抗するために騎兵達を馬ではなくラクダ に乗せて対抗させるという作戦を献策して勝利に導きました。さらに小アジアのイオニア諸都市がキュロスに反抗した ときにこれを鎮圧し、さらにカリア人やカウノス人、リュキア人など他の小アジア諸民族も制圧して、小アジアにおける アケメネス朝の勢力拡大において活躍したことが知られています。ハルパゴスはキュロスによるアケメネス朝建国に 協力し、その後もキュロスのために戦い続けていますが、彼をそのような動きに駆り立てた物は、アステュアゲス王 のむごい仕打ちだったわけです。


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