「ヴァチカン美術館所蔵 古代ローマ彫刻展」


2004年3月2日、上野の国立西洋美術館で始まった「ヴァチカン美術館所蔵 古代ローマ彫刻展」を見に行ってきました。 初日と言うことでかなり込んでいるかなと思ったのですが、行ってみるとかなり空いていました。バーンズコレクション とかレンブラントとかその手のものだと半端じゃない混雑具合だったのですが、古代ローマの彫刻というのはそれほど関心 をもたれていないのか、単に宣伝不足であること自体を知らないのか(たぶんこっちが原因だろう・・・)、平日昼の美術 館というと大勢いる中年女性の集団はほとんどいませんでした。学生とおぼしき男女や中年男性といったところが多かった ようにかんじました。

チケットを購入して展示会場へ向かうと、入り口の所に有料の小冊子(カタログとは別)がおいてありました。一部50円で 内容は人物略伝や古代ローマに関する用語の解説が書かれているというものです。一応それを購入して会場へ入りました( しかし、この有料冊子の内容は後で購入したカタログの巻末にも収録されていました。カタログを買えば同じものを見られる ので、買わなくても大丈夫です)。

全体は6部構成になっていて、まず最初には共和政期ローマの肖像やヘレニズム期の彫刻の模刻が展示されています。ここ ではプルタルコス「英雄伝」でも対になって紹介されているデモステネスとキケロの像が並べられています(デモステネス のほうはヘレニズム時代のブロンズ像を2世紀に模刻したものらしいですが)。ギリシアとローマを代表する弁論家2人で すが、デモステネスが細面で険しい表情を浮かべ、何かにいらいらしているような雰囲気が漂っている(たしかにフィリッポス 2世に苦しめられてましたから・・・)表情なのですが、キケロのほうはかなり丸い感じの中年男性の姿であり、ぱっと見た 感じからはカエサルの独裁が進むことに対する憂いやいらだちのようなものが現れているとはちょっと思えない雰囲気の像 でした。そりゃ、眉をひそめてまなざしは何となく鋭い感じはするけれども、デモステネスとくらべるとあまり厳しさを感じ させない表情だと思います・・・・。第2部では肖像制作が庶民にも広まり、墓碑や石棺が展示されていました。鏡職人や テーブル職人の墓碑や石棺とおぼしきものもありました。こういうところから当時の社会の一端が窺えるような感じです。

第3部にはいると帝政期の女性の肖像がいろいろと出てきます。時代によって特に大きな変化が見られるのは髪型です。帝政 期にはカツラをかぶるなどして手の込んだ髪型をするようになりますが、巨大な鬘をつかっているところはまるでフランスの貴族 の髪型のようでした。そのほか鏡やピン、垢すりへらなどの道具類も並べられていました。第4部では墓室に納められたり石棺に 刻まれた理想化された像の数々が並べられ、第5部ではカエサル、アウグストゥスなどローマの権力の頂点にたった人々の肖像 と、皇族の肖像が残されています。内容的にはこの部分が世界史をちょっとかじっていると一番取っつきやすいかと思います。 なかなか威厳ある表情(ちょっと理想化されているらしいですが・・・)のカエサル、思ったより子供っぽい感じのアウグスト ゥス、なんかこんな感じの人いるなぁと思ってしまったトラヤヌス、渋谷・池袋のあたりをうろつくちょっと悪っぽい若者と なんとなく似ているカラカラ・・・・。こんな人々の肖像が並べられています。

最後の第6部では古代肖像の終焉ということで、モザイクなどが並べられていますが、この部分は肖像にかんしてはあまり興味を もてずに通り抜けてしまいました。とはいえ、墓碑に関しては大工道具が描いてある墓碑や小麦桶の描いてある墓碑があり、当時 の社会に関する史料としては見られるのかな、という感じでした。どうもこの時代になると前までと比べて表現が素朴な感じに なってきます。時代によってローマの肖像といっても全く変わってしまうものなのだな、と改めて思いました。


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