李公麟「五馬図巻」をみる


(注意:この記事は2023年1月1日に書いています。うっかり忘れていました)。

2022年秋、上野の東京国立博物館の東洋館常設展示にて特集「中国書画精華―宋代書画とその広がり―」というものがありました。中国は 宋王朝の時代の書および絵画が多く並んでいましたが、その中でも特に見たいと思ったものが李公麟「五馬図巻」でした。

清朝皇室の所蔵品だったものが流出して日本に渡ったのが20世紀前半、それから後は戦争中に消失したと言われていたものだそうです。 それが久し振りに世の中に出てきたのが21世紀に入ってからのことでした。そして東京国立博物館所蔵となり、顔真卿展で一度展示された あとは修復作業に入り、それが完了したと言うこともあり公開されることになりました。

この絵を描いたのは李公麟、北宋時代の文人士大夫として画をよくし、様々な作品を残したと言われています。特に馬を描くことが初期の頃は 多く人気を博したと言われていますが、彼が書き残した絵画で真筆と認められるものはこの五馬図巻のみと言う状況です。そしてこれ以後、 この絵画は多くの人が観賞し(修理調査報告書の年表を見ると色々な人が関わっています)、清朝の乾隆帝の時代、宮廷所蔵となったようです。 それが日本に来た経緯ですが、清朝滅亡後、溥儀が溥傑に下賜したものが日本に流出、それからまもなく一度展覧会で展示されたということ までは判明しています。ただ、その後は個人蔵となり公開されずに来たという作品でした。

そんな貴重な絵画が東京国立博物館にあると聞いたら、やはり時間を作って見に行くべきであろうと思い、行ってきました。「顔真卿展」の 時にこれがあったことには全く気がつかず、その後この絵を扱った書籍も出ましたが値段を見て二の足を踏み、そのままになっていたので、 これを逃すとまたいつ見られるか分からないものならば見なくてはならないだろうと。

東京国立博物館で常設展示も見つつ五馬図巻の置いてあるエリアに向かいますと、そこにはちょっとした人だかりが出来ていました。どうやら 皆これを目当てに来たのだろうという感じが伝わってきます。とはいえ昔の展覧会の尋常じゃない混雑と比べたら全く楽に見られる状況でした。 特に写真アウトというわけではない(写真禁止のマークはなかった)ということもあり、写真を撮ったり動画で撮影したりしながら皆楽しんで いるようでした。家に帰ってあらためて見て楽しむと言うことでしょう(私も撮りましたが、、、)。

絵としては5頭の馬とそれを引く人を描いたというものですが、引いている人の風貌も西域の人っぽいひとから漢族っぽいなと想う人まで色々 といました。宋は馬の入手には苦労した王朝だとは聞いていますがその苦労の末に手に入った馬を観察したり、唐代の馬の絵から学んだりしながら 李公麟はこれらの絵を描いたと言われています。題材となった馬たちは西域や吐蕃系の人たちから宋の皇帝に献上されたもののようで、皇帝所蔵 の馬と言うこともあり非常に立派な体格をしているようにも感じます。そして、馬の姿や目つきが実にリアルで、過去の絵からの学習もさること ながら、よく観察して書いたのだろうと言うことが窺える作品となっています。宋代の跋文に、この絵画で描かれた馬が描き終わった後に魂を 吸い取られてしまったが如く死んでしまったという、ちょっとした奇談めいた文言が書かれていますが、たしかにこれはそう言いたくなる 位のできだろうと思います。

この絵画には宋代の文人による跋文や多くの文人達の印、そして清朝乾隆帝のコメント等様々なものが付加されています。これらを見ているだけで も、 この絵画が今に至るまでたどってきた道のりが感じられます。文人たちが見てきた絵画が修復され、日本の博物館で多くの人が見ることが可能に なって いる、この状況は非常にありがたいものだと思います。


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