古代ギリシャ展をみる


2016年6月21日より、上野の東京国立博物館にて「古代ギリシャ 時空を超えた旅」展が開催されています。古代ギリシア関係の 展覧会が来るのは久しぶりのこと、しかもギリシア本国から、各地の名品が多く集まるということで、開催情報を知った時から ずっと待っていました。ギリシアには遥か昔に一度だけ行ったことがありますが、その時に見たことがある物にまたであるかも しれないとおもうと、正直なところいてもたってもいられないという状態でした。どこかで見た、何かで見た、そういうものが 結構多くあるような印象を受けましたが、はたしてどうでしょうか。

展覧会は、古代ギリシア文明の歴史を時代順にたどるような構成になっています。まず最初にでてくるのはキュクラデス文明など 古代ギリシア世界の初期の段階の展示物です。この段階で残されている遺物を見ると、特定の部位を強調した人物像や、独特な姿 の彫像が多く見られます。古代ギリシアの美術というと、かなり写実的な像という印象がありますが、人間の姿をかなり抽象的な姿 で表現しており、現代美術の何かといっても通じるのではないかとおもう物が多く見られました。

その次にはミノス文明、ミュケナイ文明といった「エーゲ文明」の中でも文字が登場する時代の遺物が数多く見られました。いまだ 解読されていない線文字Aと、ヴェントリスにより解読された線文字Bの書かれた遺物も色々と展示されていましたし、非常に美しい フレスコ画、そして黄金製品の数々がみられました。古代ギリシアの本でしばしば見かけるタコを描いた壺などもきていました。 そして、ミュケナイ文明についてよく出てくるイノシシの牙を使った兜も展示されていました。ああいう風に並べるんですね、 イノシシの牙は。

実は、このあたりまで見たところでも十分に満足してしまったのですが、これはまだまだ展示の序盤にすぎません。この後には、非常に 細かく描きこまれた幾何学文様の陶器や、神話の場面や人物像などを描いた黒像や赤像の陶器が展示されていましたし、アテネ周辺以外 のギリシア各地の遺跡から発見された遺物も多く並べられていました。ここで興味深かったのは、フィリポス2世などの時代より遥かに 前のマケドニアの遺物が結構あったということです。シンドスから出土した兜などの遺物を実際に見ることができ、フィリポス以前の マケドニアの物質文化の一端が窺い知ることができました。

そのほかにもスパルタのあるラコニア地方の遺物やエーゲ海の島々から発見された遺物が多く展示されており、いわゆる「暗黒時代」を へたギリシア文明の物質文化の豊かさが見るだけでもよくわかるようになっています。そして、クラシック時代にはいると、民主政関連 の展示が増えてきます。陶片追放で使われた陶器のかけらをみると、古代アテネのそうそうたる政治家たちが一堂に会しているようです し、抽選器の実物や投票に使う投票具といったものも並べられていました。そのほか、古代の演劇に使っていた仮面や演劇に関する遺物 も結構な数が並べられていましたし、当時の人々の生活や医療に関するものも多く見受けられました。体の部位の奉納で、耳だけとか胸 だけとか、そういうのもありましたが、なんとも不思議な感じです。

そして、古代オリンピックに関係する展示で一つのコーナーが作られていました。オリンピックの競技を描いた陶器や、運動選手の像、 そして垢を掻き取るヘラの実物も展示されていましたが、こんなヘラで体をこすって汚れをこそげ落とすというのは、かなり痛そうな 気がするのは私だけでしょうか。なお、オリンピック競技の再現映像が流されていましたが、登場人物はみな褌を履いていました。 さすがに全裸の映像を流すわけにはいかないからそうなったのでしょう。

そして、展覧会は終盤のマケドニア王国、ヘレニズム時代に関する展示へと進んでいきます。アクロポリス博物館に展示されている アレクサンドロスの胸像が真ん中にあり、その周りにマケドニア王国の遺跡から発見された様々なものや、関連する彫像、そして 金貨や銀貨が並び、その隣にはマケドニアの墓の遺跡から発見された豪華な副葬品の数々が展示されていました。ヴェルギナ王墓の 財宝まではさすがにこなかったようですが、非常に精巧な作りの冠や宝飾品が数多く並べられていました。マケドニアの物質文化の 豊かさを伝える展示になっているとともに、アラバストロンのようにエジプトとのつながりもうかがわせるような遺物がありました。 そして、ヘレニズム時代のところでは、フィリッポス5世かペルセウスではないかとも言われる君主のブロンズ像がありましたが、 かなり写実的、特徴的な顔で作られているところに、理想化された姿を残していたクラシック時代との違いが感じられ、興味深かったです。

今回の展覧会では、何かの本で見たり映像で見たことのあるようなものが結構ありました。確かに現地の博物館で見れば、これ以上の 量、これ以上の質の展示も見ることは可能ですが、あまりにも多すぎて消化しきれない、受け止めきれないというところもあります。 実際、昔アテネ国立考古学博物館を見に行った時は、そこだけで1日を使いきり、その後何もする気力がないくらいにエネルギーを 消耗しました。他のギリシアの博物館も同じくらい大変だったと記憶しています。 しかし、これくらいの分量の展示であれば、十分に満足もでき、なおかつ疲れすぎないのではないかとおもいます。これを機会に、 古代ギリシアに興味を持つ人が多くなると良いのですが、はてさてどうなりますか。そして、私はこれは可能ならば何回も見に行きたい と思う展覧会でした。次に見た時は、今回とはまた違う印象を受け、違う感想をどこかで書くかもしれませんが。


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