大英博物館展をみる


「100のモノが語る世界の歴史」という本があります。元来は、イギリスBBCのラジオ番組で、大英博物館に収蔵されているもの から100の展示品を選び、それを通じて歴史について語っていきます。しかしそれはモノが残された時代のことだけでなく、後 の時代にまで及びます。選ばれているモノも先史時代のものから現代のモノまで色々あります。

本じたいがひじょうに面白く、ラジオ放送についてもBBCのサイトで今もなお聞くことができます。そんな本やラジオの企画を もとにした展覧会が日本で開催されました。それが今回見てきた「大英博物館展 100のモノが語る世界の歴史」という展覧会 です。

展覧会の構成は実際の書籍の章立てと同じような形になっています。そこに入る前に少し変わった展示があり、エジプトの棺 の横には、現代ガーナのふしぎなデザインの棺(ライオン、ナマズ、そしてビール瓶)のレプリカがならんでいました。 このガーナの棺桶が、なんともいえない雰囲気で、実に面白いものでした。こう言う棺桶を見ると、葬式という なんとなくしんみりとしそうなシチュエーションでも雰囲気が良い方に変わりそうな気がしますがどうでしょう。

それから後は、基本的に本に出てくる物が展示されています(一部、入れ替わっている展示物もあります)。古い時代ですと、 先史時代の石器(オルドヴァイ渓谷の礫石器)からはじまり、徐々に時代を遡っていきます。ただし、完全に時代順というわけ ではなく、縄文時代の日本のものと、年代で言うと近代に当たる時期のアボリジニのもの、そして先史時代のものが一緒に並べ られいるなど、なかなか刺激的な展示になっています。

その他にも、同じ時期の色々な地域を並べるような展示や、似たようなものが異なる時代に作られていることを示すような 展示があるなど、物の並べ方も相当工夫されているように感じました。のんべんだらりと古い時代から新しい時代へと順番 に並べただけの展示とは違う面白い展示になっています。

その他、大英博物館の有名どころの物も来ています。ウルのスタンダードの実物を見られるとは思っていませんでした。 なるほど、こう言う形状の物なのかと見て分かるとともに、これは一体何のために作られたのかよく分からないというのも 何となく分かるものでした。これを軍旗にするとは正直考えにくい形状ですし、かといってじゃあ何に使うのかと言われて も困ると言いますか。

そして、こう言う展覧会では古代や中世と比べると近現代はなんとなく興味を惹きにくくなると言いますか、何となく素通り してしまいそうになる人もいるかと思います。しかし近現代に関してもなかなか刺激的な展示物が並べられています。内戦 を経験したアフガニスタンで、現代兵器をデザインに取り込んで織られた織物や、放棄された武器を寄せ集めて作られた作品 など、かなりインパクトの強い物も並べられていました。ちなみに、展示では武器で作られた母親の像という物がきていました が、ラジオ放送では武器で作られた椅子が展示されていました。これに関してはかなり不謹慎な感想になるやもしれませんが、 「氷と炎の歌」シリーズの鉄の玉座(武器を組み合わせ作られていると言う設定)を思い出してしまいました。もっとも方向性 は全く違うモノではありますが。

そして、この展覧会では歴史に対する色々な見方を示しています。最後のほうに展示されていたレプリカユニフォームについて、 一つの物の背後に様々な国の人が関連していることが示されています。その辺にあるような物でもこのように面白い展示ができる というのは面白い物ですね。

展覧会というと、ついつい珍しい物を見るチャンスと言うことで、特定の物を目当てにいってしまうと言うところはあるかなと 思います。滅多に見られない物がきているとなると、万難を排して見に行くというのは分からないでもないです。しかし、希少 なものでなくても、見せ方によっては非常に刺激的な展示になると言うことがよく分かる展覧会でした。モノをつかって如何に 語るのか、と言うことを見せつけられた展覧会でした。これは普通に見に行った客だけでなく、日本の博物館・美術館関係者に とってもかなり挑戦的な企画だったのではないでしょうか。


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