古代イランの遺産
〜ペルシャ文明展をみる〜


8月4日(金)、東京都美術館にて「ペルシャ文明展」を鑑賞してきました。今年は春にポンペイ展、夏にはギリシア、ペルシアと 古代史や古代美術が好きな人にはたまらない展覧会が続いていますが一寸時間が出来たので早速見てきました。アケメネス朝、ササン朝 等の古代文明に関する物がどのくらい並んでいるのか結構楽しみです。それにしても芸大美術館にはアレクサンドロス大王の胸像が展示 されている状況下でペルシャ文明の展覧会、しかもアレクサンドロスが滅ぼしたアケメネス朝関係の遺物が多数来ているというのは何とも 皮肉な感じがしました。

「ペルシャ文明展」の内容はイスラーム以前のペルシャ文明に関する色々な遺物を展示するという物で、展示品すべてをここで紹介する のは無理なので、いくつかのまとまったグループごとに取り上げておきます。まず、紀元前5000年くらいの土器がいくつか展示されており (中には巨大な鉢もありました)幾何学紋様の描かれた土器が並んでいました。ギリシア陶器でも幾何学紋様のものがありますが、どの文明 でも始めの頃の文様というとどうも幾何学的な文様になることがおおいのでしょうか。そのなかには動物の姿をかなりデフォルメして幾何学 紋様にした物もありましたが、説明文を見て初めて動物であることに気づくといった具合でした。また、焼きもの関係ではこぶ牛の焼きもの というのが結構数多く展示されていました。これを水差しや液体を入れる容器として使うと洗うのが大変そうだなとかそんなことを思いつつ、 牛の足の部分を車輪にしてあるものには遊び心のような物が感じられました。普通のものもあるなかで足を車輪にしてあるというのが何とも 変わっています。こぶ牛の焼きものは現代美術の彫刻にもこういう形の物はあったような気がしましたが、今から遙か昔の人々の作った物が たまたまではあっても現代の抽象芸術に似ている形をしているというのが何とも面白いなと思いました。

ルリスタン青銅器とアムラシュ青銅器というイランの古代文明を代表する工芸品も多数展示されており、そこは短剣や長剣、斧などの武器、 器や水差し等々結構充実していました。また都市文明の成立した頃の遺物については、後で金銀細工のコーナーにもいくつかの展示物があり ましたが、その中には盗掘品がたまたま発見されたというものもありました。盗掘品の年代測定や用途の特定は元々あった場所から引き離され いるだけに大変だったのではないかと思われます。また、アケメネス朝からササン朝までの遺物も展示され、ペルセポリス出土のマスチフ犬の 像は実際の犬とそっくりでしたし、ライオンの足はかなり精巧に作られていました。また、ペルセポリスの浮彫もいくつか展示されていまし たが、エチオピア人やソグド人の浮彫というものもあり、アケメネス朝が世界帝国であったことを分からせてくれる貴重な遺物のようです。 ペルセポリスというとアパダーナが有名ですが、それ以外煮もこういう浮彫はあったのですね。その他、パルティアやササン朝の遺物も多数 展示されていましたが、そのほかエリュマイス王国の彫像もありました(エリュマイス王国って何?と言う人が圧倒的多数かとおもいますが、 たしか現在のイラン南西部にあった国だったかと。時期としてはパルティアと重なっていたような気がします)。

アケメネス朝、パルティア、ササン朝の各王朝に関してはその国で用いられたコインが 集められて展示されていました。一つ一つは小さいコインですが、そう言えば歴史でこんな人が出てきたなとかこんな貨幣がどこかにあったな と思わされる物がいくつかあり、なかなか興味深い物がありました。その他円筒印章のような小さい物も並べられていましたし、金銀細工や アクセサリーの類も並べられていました。金銀細工のコーナーにはアケメネス朝の遺物が結構あり、そこに今回の展覧会のポスターにも使って いる黄金のリュトンが並べられていました。大きさは意外と小さいと言えば小さいのですが、そこは今回の目玉だけあってかなり目立って いました。展示の最後の所では日本との繋がり(正倉院にはペルシア美術の影響を受けた物が多数残されていますので)をいろいろな美術を ならべ、そこの文様やガラスの器が色々と関係があることを示していました。日本で展覧会をやる上で、やはり日本との繋がりというのを示 すことは必要なのでしょう。このへんはいつぞやのアレクサンドロス展よりは納得がいくものでした(正倉院のことを考えると至極まっとう なことかと)。

全体として、なかなか面白い展覧会だったなと思います。写真では見たことがあっても実物を見たことがないもの(黄金のリュトンなど)が 自分の目の前にあり、じっくりと見られたのは嬉しかったですね。一方、円筒印章とか碑文の訳文もちょこっと載せてほしかったかなと思い ます。図録には内容の説明もありましたが、展示のパネルでそれをもっと出しても良かったんじゃないかなとは思います。


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