大王の帰還
〜ルーヴル美術館展をみる〜


6月25日(日曜日)の午後、久しぶりに上野の東京芸術大学美術館に行ってきました。目的は現在ここで開催されている 「ルーヴル美術館展 古代ギリシアの芸術・神々の遺産」(8月20日まで)を鑑賞するためです。2005年10月よりルーヴル 美術館では〈古代ギリシア・エトルリア・ローマ美術〉部門の展示室の改修を行っており(2007年2月完了予定)、その間 に古代ギリシア・ローマ関係の収蔵品を日本にいくつか持ってきて展覧会を開いているというわけです。さすがに「ミロの ビーナス」は来ていませんが、それ以外にも多数の優れた収蔵品があるため、その中から134点ほどを選んで日本にもって 来たというわけです。

展覧会の構成は1:クラシック時代のアテネ、2:古代ギリシアの生活、3:古代ギリシアの競技精神、4:神々と宗教の 4つにわかれています。1:クラシック時代のアテネでは歴史的プロローグとしてアテネに関係のある歴史上の人物の胸像 3つを並べ、そのあとはアテネの創世神話としてエリクトニオスやテセウスに関する浮き彫りや赤絵のアンフォラ、そして アテナの像やアテナ像を刻んだ碑文の断片(ミュティレネが関係しているようです)と言った物が展示されています。さら にアクロポリスの建設の様子を描いたらしい陶器やパルテノン神殿のアテナ像の縮小コピー、会計碑文といったアクロポリス に関係のある遺物、そして墓碑や記念碑、様々な陶器といったものが墓地に関連する物として展示されています。ここの展示 で個人的に最も興味を引いたのは、3年前の夏に東京に来た「アザラのアレクサンドロス像」がまた日本に来ていたという 事です。古代ギリシア芸術・神々の遺産と言う副題がついていたので、神様の像とかそう言うのばかりが来る物だと思って いたのですが、その中に混ざってアレクサンドロス大王の像まで来るとは正直思っていませんでした(サイトの展示紹介では まったく出てきていないので)。

つぎの2:古代ギリシアの生活のコーナーはいきなりソクラテス、プラトン、アリストテレスの3人の哲学者の胸像に遭遇し、 そこから赤絵や墓碑、テラコッタの像などがならべられています。これは陶器や墓碑に当時の人々の生活を窺わせる図像が 描かれたり掘られたりしているためですが、こういった物を見ると古代の人々の生活の様子がよりイメージしやすくなるような 気がします。子どもに関係する物が結構数多く並べられていましたが、当時の子どもの遊びの様子や、実際に遊びに使ったコマ 等の展示の他に子どもの墓碑もあり、それを見ると古代世界では子どもの死亡率が高かったということが思い出されます。

3:古代ギリシアの競技精神はギリシアで盛んだった競技会に関係する図像の書かれた陶器や彫刻を展示していました。ここでは エウリピデスの彫刻に彼の悲劇のタイトル一覧が彫り込まれていたり、昔の詩人の胸像があったりしました。スポーツ、詩、劇な どなどすべてにおいて競争がおこなわれるギリシアについて、かつてブルクハルトが「アゴン(競争)社会」という言葉を用いて 表現したことがありますが、何でも競争にしてしまうと言うギリシア人の競争好きはどこに由来するのでしょう。人間であれば 平等であると言うところから来ているのでしょうか。平等でない社会であれば競争せずとも序列は決まっていますが、そう言う物 が無い分、かえってそれをはっきりさせようとして色々なところで競争をしているのでしょうか。

4:神々と宗教ではギリシア神話の神々の象が多数展示され、ここには今回の展覧会の目玉と言っても良い「アルルのビーナス」 やアレス像など大型彫刻が多数並べられています。ギリシア彫刻というと神々の像は多数残されていますが、昔テレビや本で見た 物もいくつかあり(トカゲを殺すアポロンは昔NHK特集「ルーブル美術館」で見た記憶があります)、実際の大きさをしって、結構 大きいんだなと思いつつ見てきました。3D映像のコーナーもありましたが、それはちょっと飛ばしてきました。

日曜日の午後と言うこともあり、かなり混雑していましたが、入場時に係の人が整理しながら誘導しているので、意外と混雑で 嫌になることもなくギリシア美術を堪能してくることが出来ました。出来れば平日にもう一度見に行きたいところですが、果たして どうなることか。とりあえず、アザラのアレクサンドロス像がまた来ているので、3年前の展覧会を見逃した方はこの機会に見て おきましょう。


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