手に取ってみた本たち 〜ヤ行〜


  • 最上部へ
    八木久美子「慈悲深き神の食卓 イスラムを「食」から見る」東京外 国語大学出版会、2015年
    人間にとり「食べる」ということは絶対に欠かせないことです。しかし宗教によっては食に関して様々なルールが設けられている ところがあります。よく知られていることとしてはイスラム教では豚を食べてはいけない、酒を飲んではいけない、そういう事が とりあげられます。

    本書は、ハラールやラマダーンといった、イスラムにおいて「食べる」行為と密接に関わる事柄を、エジプトの事例を主に取り上げ ながら論じていきます。昨今はやりの「ハラール認証」は今までのイスラムの食に対するあり方とは随分と違う、現代ならではの ものであること、ラマダーンの時に行われる施しの食卓をめぐる様々な論点など、結構興味深い題材が色々とでてきます。

    柳沼重剛「地中海世界を彩った人たち 古典に見る人物像」岩波 書店(岩波現 代文 庫)、2007年
    神話の世界の英雄から、歴史上の人物まではばひろくあつかった古代ギリシア・ローマ世界の人物伝です。しかし、学術的に古代人の 伝記を綴った本ではなく、その章で取り上げられている人物について、エピソードをいくつか掲載しながらその人について紹介して いく、どちらかというと軽く読めるエッセイ風の仕上がりになっています。もとはNHKラジオ講座のテキストで、ラジオでの語りを想定 して作られた本です。そのため、詳しく知りたいという人には少々物足りない所もあると思いますが、西洋古代史に軽く触れる入り口 としては手っ取り早い1冊です。

    屋敷二郎「フリードリヒ大王」山川出版社(世界史リブレット人)、2016 年
    プロイセンをヨーロッパ列強の地位にまで引き上げたフリードリヒ大王の評伝です。彼が登場する以前の状況から、彼の生涯をあつかい、 彼の元での司法改革や、「寛容」な統治についてまとめています。プロイセンが彼の登場以前から宗教的に極めて“寛容”であり、 アウクスブルクの宗教和議の原則すら逸脱していることがあったことなど、興味深い話題が幾つか見られます。

    矢島文夫訳「ギルガメシュ叙事詩」筑摩書房(ちくま学芸文庫)、1998年
    ウルク王ギルガメシュを主人公とする物語はもともとはシュメール人の神話でしたが、メソポタミアの地の支配者が変わりゆく中でも 語り継がれ、さらに様々な内容が加わりながら各国語で書きのこされて今に至っています。ウルク王ギルガメシュとエンキドゥとの友情 と様々な冒険、エンキドゥの死と永遠の生命の探求と言った内容が残されています(大洪水の伝説もこの中に含まれています)。古代の 叙事詩でしかも断片的に残された物を繋げているため少々読みにくいと感じるところもあると思いますが、現代の様々な創作物にも影響 を与えている作品ですので一度は読んでみるべきかと思います。

    家島彦一「イブン・ジュバイルとイブン・バットゥータ イスラーム世界の交 通と旅」山川出版社(世界史リブレット人)、2013年
    イスラム世界ではメッカ巡礼が信者の果たすべき義務とされていました。旅はなかなか大変なものでしたが、旅をした人々のなかに 旅行記を残した人々もいました。本書で扱われているイブン・ジュバイルとイブン・バットゥータはその中でも特に有名な人々です。

    本書は伝記としての内容も含まれいてますが、彼らの旅を可能とした要因や、旅行記文学発展の要因、2人の旅人の視点や考え方など にもふれています。

    安彦良和(画)「アレクサンドロス 〜世界帝国への夢〜」 NHK出版(コミック版「文明の道」第1巻)、2003年 (完全版2008年)
     一括紹介その1へ移動しました

    安村直己「コルテスとピサロ」山川出版社(世界史リブレット人)、2016 年
    新大陸へやってきたコンキスタドールのなかで、コルテスとピサロの2人は非常に有名です。アステカ王国、インカ帝国といった 新大陸の大国を滅ぼしてしまったということで、いろいろな点で歴史に影響を与えた人々です。本書では、彼らの征服活動がなぜ うまくいったのか、しかしその後彼ら2人が征服地の統治から排除されて行ったのはなぜかといったことを扱っています。彼らを 取り巻く周囲の人々の動向、そして先住民たちの動きもおさえてコンパクトにまとめた一冊です。

    谷津矢車「ふりだし 馬律流青春雙六」学研パブリッシング(学研M文庫)、 2014年
    江戸で浪人となった丈衛門はあることがきっかけで経営指南所「唯力舎」に入門することになります。そこには腕っ節のたつ 若い女師範のもと、帳簿をすぐさま読み解く、嘘を見抜く、独創的な商売アイデアを考案する、といった特殊能力を持つ一癖 ある人たちが集まっています。“凡人”の丈太郎も唯力舎に持ち込まれる犬のしつけから経営が傾いた店の再建まで多岐にわ たる様々な仕事に対し全力で取り組んでいきます。非常に読みやすい時代小説です。

    八塚春児「十字軍という聖戦 キリスト教世界の解放のための戦い」NHK出 版 (NHKブックス)、2008年
      一括紹介(その3)に掲載

    藪耕太郎「柔術狂時代」朝日新聞出版(朝日選書)、2021年
    日本で嘉納治五郎により柔道が造られていく、ちょうどその時期に、柔術、そして柔道がアメリカに伝わり、一時ブームになったことが ありました。本書ではアメリカにおける柔術ブームについて、ジャポニズム、日露戦争、大衆消費社会、この3つを重要な要素と考え、 柔術がどのようにアメリカで受容されていったのか、そしてブームが去る背景に何があったのかを明らかにしていきます。

    山内進「十字軍の思想」筑摩書房(ちくま新書)、2003年
      一括紹介(その3)に移しました

    山内進「北の十字軍」講談社(講談社学術文庫)、2011年
    十字軍というと、エルサレム奪回を目指したものが有名ですが、実は「十字軍」として扱われた軍事行動は他にもあります。 バルト海沿岸、東欧に向けて行われた「北の十字軍」はキリスト教圏に組み込まれていないバルト海沿岸のスラヴ系諸族と の闘いが中心となるもので、これに関わった組織としてはドイツ騎士団が有名です。

    本書では、ヨーロッパ・キリスト教世界の拡大の1つとして「北の十字軍」をとりあげ、フランク王国の時代から話を説き起こし ながらヨーロッパによる異教徒世界の征服とキリスト教圏拡大がバルト海沿岸・東欧でどのように進められたのか、ドイツ騎士団 はどのような活動をしていたのか、そしてヨーロッパ・キリスト教世界拡大の歴史において「北の十字軍」はどのような位置づけが できるのかをまとめています。大航海時代以降も続く異教徒を征服し、キリスト教圏に組み込む際の論理の形成に「北の十字軍」が 関係していたことと同時に、自然法・万民法的発想を異教徒にも適用する“人権思想”も生み出されていったというところは 色々と考えさせられます。

    山内進「増補版 決闘裁判」筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2024年
    オペラの「ローエングリン」、小説の「アイヴァンホー」など様々な場面で決闘で正否を決めようとする場面が現れます。 このような決闘により何が正しいかどうかを決定しようとする「決闘裁判」について、本書ではその根底にある精神など も探求しつつさぐっていきます。

    裁判の当事者同士が、己の権利と正義を求めて行う自力救済の戦いである決闘裁判の歴史や仕組みがまとめられています。 それとともに、この裁判制度に見られる当事者同士が行う自力救済の戦いが、現代の西洋世界での裁判が原告と被告の対決 のような形になっていることにも影響しているのかなと思わせるところがあります。

    山川偉也「哲学者ディオゲネス 世界市民の原像」講談社(学術文庫)、 2008年
    シノペのディオゲネスというと、「犬」と呼ばれ、大甕のなかで暮らし、アレクサンドロス大王に対し日陰になるからどいてくれと言った… 等々、奇人としてのイメージが強いのですが、彼は「世界市民」という理念を唱えそれを実践しようとした哲学者でした。しかし彼の著作は 現存しておらず、彼については後の世に書かれた「ギリシア哲学者列伝」中の短い伝記やほかの哲学者の著作を通じて知るしかない状態です。

    本書では前半でシノペで生まれ育ち、通貨変造の罪で国外追放になるまでのディオゲネスの生涯を「哲学者列伝」の逸話を細かく分析しながら 再構築し、後半からはディオゲネスの活動(「犬」というポジションを意図的に取ったことや奴隷制に反対したことなど)をまとめつつ、彼 が打ち倒すべき物と見ていたアリストテレス的な人間観や正義論とその問題点にふれ、彼が唱えた「世界市民」理念とその後の影響について 論じていきます。著者は彼の哲学者としての歩みを考える上で、通貨変造事件が重要な意味を持つとみて、非常に丹念に史料を読み込みながら まとめています。

    ヤマザキマリ「テルマエ・ロマエ」エンターブレイン、2009 年〜2013 年 (全6巻)
    古代ローマを扱った創作物はあまたあれど、ひたすら風呂に注目した物はこれしかないでしょう。なぜか浴場を専門に設計するローマ人が 現代日本の風呂にタイムスリップし、そこで様々なアイデアを手に入れるという、古代ローマと現代日本が風呂場でつながっているという なんとも変わった漫画です。温泉卵やフルーツ牛乳などの変わった物を古代ローマに持ち込もうとする主人公が何ともおかしくて笑えます。

    第2巻では、いきなり金精様の話から始まり、風呂のマナー、ウォータースライダー、そしてスタンプラリーなどなどのネタが詰め込まれてい ま す。果たしてどこまでネタが続くのかと心配したものの、まさかそういう引っ張り方になるとは思っていませんでした。その後しばらく単発 ネタの路線が続き、途中から主人公が一時帰れなくなったり古代ローマにやたらとくわしい温泉街の娘さんが登場したり、長編モードにはい り、 最後は大団円で終わっていきます。途中でちょっと息切れした感じもしましたが、これはこれでいいのかなと思います。

    ヤマザキマリ「オリンピア・キュクロス」集英社、2018年〜
    古代ギリシアのツボ職人がなぜか東京オリンピックの年の東京へタイムスリップ。そこで目にした様々なものが彼に変化をもたらす ことに、、、

    第1巻では、地域の運動会や盆踊りといった話題が扱われたかと思うと、突如東京オリンピックのマラソンをなぜか走ってしまうなど、 古代から現代にやってきてやりたい放題な感じがします。話の流れは「テルマエ・ロマエ」とおなじですが、面白いですよ。 

    山田勝久・児島建次郎・森谷公俊「ユーラシア文明とシルクロード」雄山 閣、 2016年
    インド・ヨーロッパ語族の移動から始まり、アケメネス朝、パルティア、ササン朝といったイランに栄えた帝国の歴史やこの地域で 栄えた宗教、そしてシルクロードの果たした役割といったことを扱った本です。このなかで特に興味を持って読んだのが、ダレイオス 1世によるアケメネス朝の「創造」、アレクサンドロス東征のペルシア門の戦い、ダレイオス3世とアケメネス朝ペルシアの滅亡に ついて扱われた章です。この3章が非常に面白かったです。

    山田勝芳「貨幣の中国古代史」朝日新聞社(朝日選書)、2000年
    殷の時代に用いられた子安貝や亀甲からはじまり、戦国時代の刀銭や布銭のような現物を象った貨幣の登場や貝と亀甲の伝統を引き継ぐ 楚の貨幣、そして貨幣後進国だった秦が国内の貨幣制度を整備して作り上げた半両銭と達成できなかった貨幣統一の試み、そして前漢の 五銖銭がその後の基準通貨となる過程をまとめています。その後王莽による貨幣制度改革が行われたり、後漢では五銖銭を発行した一方で 悪銭の流通と良銭の退蔵、布や穀物と言った現物が貨幣としての役割を果たしたことも述べられていきます。そして隋による唐の開元通宝 までまとめているという、古代中国の貨幣発行や各王朝の貨幣流通策・安定策,貨幣を巡る当時の人々の意識や観念の問題にまで踏み込んだ 一冊です。古代の貨幣について、最近の研究動向をもとにまとめられているので、興味のある人は一読することをお薦めします。

    山田重郎「ネブカドネザル2世」山川出版社(世界史リブレット人)、 2017年
    新バビロニア王国のネブカドネザル2世について、残された様々な資料を元に実際のネブカドネザル2世の姿に迫る一冊。同時代 資料を元にして、彼の築いた王国の官僚機構や政治制度、建造物などがわかりやすくまとめられています。バビロン捕囚を行った ということだけではないということがわかる。

    山田貴司「ガラシャ つくられた「戦国のヒロイン」像」平凡社、 2021年
    戦国時代の女性というと、細川ガラシャの名は多くの人が挙げるのではないでしょうか。父があの明智光秀であることや、夫細川忠興との関係、 キリスト教に入信したこと、そして関ヶ原合戦へむけ動き出す中での壮絶な最後など、非常に印象深い人物です。そんなガラシャの生涯をたど り つつ、彼女の生き様がどのように人々に見られていたのか、後世におけるガラシャ受容の歴史も描き出していきます。家に殉じた「節婦」 「烈婦」という評価が江戸時代の日本にあり、それと別にヨーロッパで迫害に耐えた「美貌の殉教者」という語られ方が存在していたものが、 明治時代に両者が融合して、いまにあるようなイメージができていくというプロセスが面白いと思います。

    山中由里子「アレクサンドロス変相」名古屋大学出版会、2009年
    マケドニア王アレクサンドロス3世(大王)というと、マケドニア・ギリシア連合軍を率いてアケメネス朝を征服した人物であり、その後 ヨーロッパでは文明の使徒のような扱いをされたことがあります。いっぽう、彼が支配下に置いた世界はやがてイスラーム世界となって いきますが、イスラーム世界においてもアレクサンドロスにまつわる伝承が残されています。

    本書では古代ギリシア・ローマ、イランにおける伝承がイスラーム世界に受け継がれ、それがクルアーンにでてくる「二本角」や、 イスラーム世界の歴史書や伝承に登場する様々なアレクサンドロス像(哲人だったり賢人だったり、悪人だったりしますが…)と して現れてくることについてまとめ、そのうえでイスラーム世界におけるアレクサンドロスはどのような人物として書かれている のかを考察していきいます。アレクサンドロスの「実像」ではなく、後世の人がアレクサンドロスを如何に表現していったのか、 要するにアレクサンドロス大王の「イメージ」について研究し、まとめた一冊となっています。

    山之内克子「ハプスブルクの文化革命」講談社(選書メチエ)、2005 年
    ハプスブルグ帝国のマリア・テレジアとヨーゼフ2世の母子というと、外交革命とかマリー・アントワネットとか啓蒙専制君主といった 事柄で良くその名が出てくる人々です。本書では彼らによって伝統的な余暇や娯楽といったものがどのように管理されるようになったのか、 臣民の「平準化」をすすめるなかで宮廷儀礼がどのように変わっていったのか、そして娯楽が「参加する物」から「見る物」という受動的な 関わり方へと変わっていく様子や、君主にとって望ましい余暇の過ごし方として自然の中で過ごすと言うことがヨーゼフ2世時代に薦められた 様子がかかれています。王とスペクタクル・娯楽というとルイ14世の時のフランスについて色々と書いた本がありますが、17世紀の絶対君 主 の頃の宮廷とヨーゼフ2世の頃の宮廷がかなり違う性格を持つようになる(公的生活圏の頂点・中心から君主が後退し、私的領域にこもっていく というところなども、他の宮廷と比べてどうだったのかを知りたくなってきます。娯楽に対する君主の関わり方の変化と思想的背景(啓蒙思想 な ど) が関連していると言うことが同時代の記述を元に描かれていて、なかなか面白い本だと思います。

    山之内克子「物語 オーストリアの歴史」中央公論新社(中公新書)、 2019年
    オーストリアの歴史というと、ハプスブルク家関連の歴史については数多くの本が出ています。また世界史で習うとすると近現代のナショナリズム や民族自決、ナチスの台頭といったところもさらに扱われているかもしれません。しかし、オーストリアをかつて構成していたり、現在オース トリ ア の領土となっている地域それぞれを見ると、各地域で共通している事柄も有る一方、独自性もかなり強く見られます。そういった各地域独自の歴史 を 可能な限りすくい上げながらまとめ上げた一冊です。

    山花京子「古代エジプトの歴史 新王国時代からプトレマイオス朝時代ま で」 慶應義塾 大学出版会、2010年
    古代エジプトの歴史というと、ピラミッドや大規模な神殿などの建造物、ミイラや死者の書などの死後の世界にまつわる文化、オシリスなどの 神々、ツタンカーメンやラムセス2世などのファラオ、そしてクレオパトラについて扱われた本は多数ありますし、発掘に関する本も結構あり ま す。 しかし、古代エジプトの歴史について、1冊でまとめていて簡単に読める物というのは案外見かけなかったりします。

    本書は、新王国時代からプトレマイオス朝時代までのエジプトの歴史という、エジプトが地中海世界やオリエントとの関わりを深め、それらの 世界の影響を受けつつ、エジプトの文化が他地域に分散して影響を与えていく時期をあつかっています。新王国時代のエジプトの社会や芸術、 第3中間期(分権的状況)と末期王朝時代、アッシリアやアケメネス朝の支配下におけるエジプトの状況、プトレマイオス朝エジプトの社会や 文化について1冊で読みやすくまとめられています。

    山舩晃太郎「沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う」新潮社(新潮文庫)、 2024年
    水中考古学の分野で活躍し、様々なメディアにも登場する著者が、水中考古学者となるまでの歩みと、関わってきた水中考古学の現場についての エッセイです。色々なところで水中遺跡の発掘に関わっており、水中考古学の作業手順や研究についても分かりやすく書かれています。そして、 英語が全く出来ない状態で渡米し、そこから努力を重ね、ついに博士論文でこの分野の研究について新たな方法論を提示して発展に貢献するように なるまでの道のりは、好きこそものの上手なれといいますか、何かを知りたいという欲求が核にあることの大切さというか,そのようなものを感じ ます。

    山辺規子「ノルマン騎士の地中海興亡史」白水社(白水Uブックス)、 2009年
    かつてノルマン人たちはヨーロッパ各地を席巻しました。北欧から北仏ノルマンディに定着したノルマン人のなかには、新天地を求めて故郷 を離れ、地中海方面にて活躍する者もあらわれました。彼らは傭兵として活躍しながらイタリア南部に拠点を築き、ついにはシチリア王国を 建国するに至ります。本書ではそんなノルマン騎士たちの活躍がまとめられています。東西ローマ皇帝やローマ教皇すら恐れぬロベール・ ギスカール、シチリア王国を建国したルッジェーロ、第1次十字軍に参加したボエモンド、ノルマン朝最後の繁栄期を築き上げたグリエルモ2世、 そう言った人々の織りなす歴史に触れてみましょう。

    山本史郎「名作英文学を読み直す」講談社(選書メチエ)、2011年
    「秘密の花園」や「ロビンソン・クルーソー」、「マクベス」など、名作英文学について、単に字面を追いかけるのではなく、そこに書かれた 事柄を読み解いたり、先行する作品のとの関係について論じたり、レトリックや韻の踏み方をどういう風に翻訳するかを考えたり、舞台の台本 をどう読むのかを考えたりと、どういう風に「読む」のかをわかりやすく説明しようとした本です。

    ロバート・ヤング(伊藤典夫訳)「たんぽぽ娘」河出書房新社(河出文 庫)、 2015年
    「おとといは兎を見たわ、きのうは鹿、今日はあなた」、このふしぎな文言が印象的な表題作をはじめ、叙情的でロマンティック なSF短篇集です。SFにそれ程なじみがない人でも読みやすいのではないかと思います(私でも読めたので)。

  • 最上部へ
    湯浅邦弘「諸子百家」中央公論新社(中公新書)、2009年
    近年、中国で発掘により古代の竹簡が発見され、それにより古代の様々な文献が発見されることがあります。それにより、諸子百家の研究も 大きな影響を受けているようです。本書ではその成果も一部に取り込みながら、儒家・道家・墨家・法家・兵家といった主立った思想家集団 について簡潔にまとめていきます。新書サイズの入門書としては良くまとまっているので、諸子百家についてまずどんな感じなのか知りたい 際に役立つと思われます。

    油井大三郎「好戦の共和国アメリカ 戦争の記憶をたどる」岩波書店(岩 波新 書)、 2008年
    ある時は謀略や事故を利用して戦争を開始し、またあるときは「文明と野蛮」「自由・民主と独裁」といったロジックを利用して戦争を仕掛け る…、 アメリカの歴史は常に自分たち以外の何かとの戦いに彩られています。本書では植民地時代(英仏第2次百年戦争、独立戦争)、独立直後(先住民 との戦い、米英戦争、米墨戦争)、内戦と海外発展(南北戦争、米西戦争、米比戦争)、世界大戦(第1次・第2次世界大戦)、冷戦体制下で の戦 争 (朝鮮戦争、ベトナム戦争)、冷戦後の戦争(湾岸戦争、アフガニスタン、イラク)といった戦争を取り上げ、そこに至る過程や戦争の途中、戦後 の様子などから、アメリカ合衆国のもつ「好戦性」について見ていきます。またその一方で戦争を抑制しよう、戦争をやめようとする「非戦 性」 にも注目しながらまとめていきます。アメリカの闘った戦争を軸に、植民地時代から現代までの400年間のアメリカ史をまとめた一冊です。

    唯川恵「ベター・ハーフ」集英社(集英社文庫版)、2005年
    バブル経済末期に結婚した夫婦の世紀末までの10年間ほどをえがいた小説。この夫婦が、ここまでどろどろになりなが ら夫 婦として 10年一緒に やってこられたというのは、夫婦というものが生活する上のパートナーであり、単なる恋愛関係とはちがうということなのでしょうか。 結婚って大変だなあ…、ということをふと思ってしまいました。

    湯川武「イスラーム社会の知の伝達」山川出版社(世界史リブレット)、 2009年
    一括紹介その5に掲載

    弓場紀知「青花の道 中国陶磁器が語る東西交流」NHK出版(NHK ブック ス)、 2008年
    元の時代に本格的に作られるようになった青花という磁器を中心に、中国産陶磁器がイスラム世界やヨーロッパに持ち込 まれ たり、イ スラムや ヨーロッパの影響を受けた陶磁器が中国でも作られたことなど、東西交流史的な内容を扱っていきます。後半はフスタートなど実際に調査して 陶磁器片を見つけて整理した遺跡の話が中心で、前半に元明期の景徳鎮の発展についてまとめています。陶磁器の種類とか地名などがいろいろ 出てきて、それが一寸頭の中を混乱させるところがありますし、なにより図版があまりないので陶磁器の種類を挙げられてもかなりわかりにく かったりと、読むのに骨が折れる本でしたが、陶磁器の交易について、海上ルートだけでなく草原地帯のルートの重要性を指摘しているところ はなかなかおもしろいと思います。

    夢枕獏「シナン」(上・下巻)中央公論新社(中公文庫)、2007年
    16世紀のオスマン帝国で、デヴシルメ制度により徴用されてイェニチェリとなり、そこから帝国の首席建築家へと上り詰めたシナンの 生涯を書いた歴史小説です。合間合間に歴的背景の解説が結構ある物の、全体として結構軽く読める本なので、オスマン帝国について なじんでもらうには意外と丁度よいかもしれません。

  • 最上部へ
    吉川幸次郎「漢の武帝」岩波書店(岩波新書)、1963年(改版。初版 は 1949 年)
    漢の国力が増大し、力が蓄えられた丁度そのころに皇帝となり、その積極策によって中国史上、一つの画期となる時代をもたらした 漢の武帝についての人物伝。即位前後の頃の話から始まり、匈奴との戦い、西域や南方への勢力拡大のはなしから、武帝の周りにいた 文人や官僚の話、神仙思想への傾倒と封禅、晩年の身の回りにおける不幸といったことまで、簡潔にして読みやすい文章でまとめて います。初版が出たのが戦後間もない頃、改版がでたのが東京オリンピック前年というかなり昔に出版された本であり、内容的には すでに古くなっている箇所もあるのかもしれません。しかし漢の武帝という一人の人物について、前半生の華やかな時代と後半の陰を 帯びてくる時代を読ませる文章で描き出しており、非常に面白い一冊です。

    吉川忠夫「侯景の乱始末記 南朝貴族社会の命運」中央公論新社(中公新 書)、1974年
    爛熟期といっても良い南朝貴族社会に打撃を与えた侯景の乱の顛末と、その前後の時期に関する話をまとめた一冊。貴族社会の黄昏を 読みやすく、かつしっかりした文章で描き出しています。読んでいるうちに南北朝時代の歴史に引き込まれることは確実な一冊だと思います。 

    吉川忠夫「顔真卿伝」法藏館、2019年
    書家として現代では有名であり、2019年の1月から2月に展覧会も開催された顔真卿の伝記です。書家としての顔真卿についてだけでなく、 官僚としての彼の歩みと気骨ある生き方、そして文人としての彼の姿がコンパクトにまとめられています。 

    吉澤誠一郎「清朝と近代世界 19世紀」岩波書店(岩波新書)、 2010年
    清朝の近代というと、欧米列強の圧迫を受ける中で衰退の一途をたどっていき、辛亥革命で滅びるという描かれ方をすることが多い ようです。しかし本書では没落・衰退の清朝史としてではなく、近代世界の中で主体的に振る舞う清朝の姿が書かれています。また、 当時の社会や経済、文化についても触れられており、意外と知っているようで知らない19世紀清朝の歴史を知ることが出来る一冊です。

    吉武純夫「ギリシア悲劇と「美しい死」」名古屋大学出版会、2018年
    ギリシアにおける「美しい死」とは何か、その表現がどのような意味を持つようになり、それをギリシア悲劇で使うことでどのような 効果があったのかといったことを明らかにしていきます。

    よしながふみ「きのう何食べた?」(1巻〜4巻)講談社、2007年〜
    都内某所2LDKに男二人暮らしで住む、弁護士の筧史朗と美容師の矢吹賢二の食と生活をめぐる物語です。1ヵ月の食費は2万5千円と いうなかで食事をやりくりしているのですが、そこで出てくる料理は実際に何かを作ろうと思ったときになかなか参考になります。

    吉村昭「ニコライ遭難」新潮社(新潮文庫)、1996年
    ロシア帝国皇太子(当時)ニコライが日本人巡査に斬りつけられた「大津事件」を題材にした小説です。しかし小説というより、 あたかもニコライ皇太子訪日から、大津事件の後日談までを扱った歴史書のような印象を受ける本で、このへんはまさに徹底した 史実調査を行ったうえで書くという著者の姿勢が窺えます。

    吉村忠典「古代ローマ帝国の研究」岩波書店、2003年
    古代ローマ史(主に共和政の時代)を専門としている吉村忠典先生が今までに発表してきた論文のうち数本をまとめた論 文集です。著者の考える「ローマ帝国」とはローマ市民が支配を担う「ローマ」が地中海世界の他の「くに」を支配する関係そのもの をいっているようです。また「帝国」という言葉がどのように使われるようになったのかということについても詳しく書かれています。 こうした大きな枠組みのなかで、属州における兵の動員や元首政成立過程、「自由」の概念を論じた論文が続きます。それらの論文に 通底するものはやはり支配−被支配関係を基軸とし、各地の有力者を組み込んで作り上げたものがローマ帝国であるという著者のロー マ帝国観です。

    吉村忠典「古代ローマ世界を旅する」刀水書房、2009年
    「古代ローマ帝国の研究」の吉村忠典先生が発表してきた書き物のうち、どちらかというと一般向けに書かれた物に一部加筆を加えて まとめなおしたものを1冊の本としています。「古代ローマ帝国の研究」で書いていることをより分かりやすく砕いた感じの本で、 こちらを読んでから論文集の方に進んでみると良いかと思います。また、最後の方には吉村先生の研究生活の歩みがまとめられて いますが、戦後の歴史研究の世界の一端や、ドイツでの研究生活の様子は興味深い内容を含んでいます。

    吉村正和「心霊の文化史 スピリチュアルな英国近代」河出書房新社(河 出 ブック ス)、2010年
    19世紀イギリスで流行した心霊主義というと、今では疑似科学の一種として扱われています。しかし流行した当時は人々に対する影響力はかなり 大きく、様々な学問や思想(ロバート・オーウェンも晩年心霊主義に傾倒していきます)、芸術(イェイツやカンディンスキーにも影響したと か) にその様子が見て取られると言います。それをまとめたのが本書です。少々こじつけっぽいなあと言う印象を受ける箇所もありましたが、従来の 価値観が揺らいでいるときになにやら変わったものがはやるというのは今も昔もあることのようですね。


    手に取った本たち
    読書の記録
    トップへ戻る

    inserted by FC2 system