「世界史リブレット」で読むイスラム


山川出版社から出ている「世界史リブレット」シリーズ(全92冊を予定)は90ページ前後の小冊子ながら、その分野の専門家が書いて いるだけに内容はかなり濃い仕上がりになっています。その構成を見ると、イスラム関係の書籍が1割ほど含まれており、最近の動向を いろいろと反映した作りになっているようです。ここでは、イスラム関係のものを取り上げ、その内容を紹介してみようと思います。


  • 東長靖「イスラームのとらえ方」(15巻)、1996年

  • イスラームとはなにかということについて、非常に基本的な事柄(「イスラム教」ではなく「イスラーム」と書くのはなぜか、イスラーム に対するイメージ(戒律に縛られている、攻撃的、砂漠の宗教)など)から話を始めて、「五行」と「六信」とはなにか、クルアーン(コーラン) とはどのような書物なのか、イスラム法やハディース、スーフィズムといった良く出てくる事柄についての解説、そしてシーア派とスンナ派の 違い、イスラームと政治の関係について成立時から現代までの概説までを扱った本です。

    イスラームについて90頁弱で簡潔に特徴をまとめており、かつ読みやすい本だと思います。シーア派のイマームとスンナ派のカリフがどのよう に違う物なのか、スーフィズがイスラームの普及とどのように関係があったのかといったことはかなり分かりやすいように思います。イスラーム についてとりあえずこのくらいは知っておけと言う事柄を押さえたいときに読むとよいでしょう。なお、この本でも所々註がついているのですが、 註というよりも著者の一言コメントの様相を呈している物があったり、そこにこの内容の本で註をつけるのかと不思議に思うところ(消費税問題) もありましたが、それもまあいいのではないかと。

  • 三浦徹「イスラームの都市世界」(16巻)、1997年
  • (現在読書中)

  • 佐藤次高「イスラームの生活と技術」(17巻)、1999年

  • イスラーム世界では周辺文明との接触を通じて様々な物が流入し、諸文明の文化遺産が融合して発展していったことはよく知られている とおもいます。本書ではイスラーム世界において発展した技術の中で、人々の生活に大きな影響を与えることになる紙と砂糖に焦点を絞り、 紙の製法の伝来と拡大、実際にどのように紙を作るのか、どのようなペン、インクを用いていたのか、紙の登場と出版文化の関係をまとめ、 さらに砂糖の伝来と栽培・製造の拡大と発展、エジプトにおけるサトウキビ栽培と砂糖生成の具体的なあり方、砂糖精製の方法の発展(白 砂糖をどうやって作るのか)、租税・商品・薬・君主からの贈答品・祭の飾りなど様々な形での利用方法、紅海・地中海交易に従事した カーリーミー商人の盛衰についてまとめています。

  • 杉田英明「浴場から見たイスラーム文化」(18巻)、1996年

  • イスラームについて説明するとき、しばしば融合文明と言う言葉が用いられることがあります。イスラーム世界となった地域には、 かつて様々な文明が栄え、またイスラーム世界の拡大過程で接した諸文明から色々な物が伝わり、それらの諸文明の文化的遺産を引き継い だというのがイスラームであると言うことになります。イスラームの「融合文明」としての面を示すものというと、よくギリシア・ローマ の古典を翻訳して、哲学や医学などを発展させたと言うことが言われますが、それ以外で日常生活により密着したものが一つあります。 それが、本書でテーマとしている公共浴場です。

    イスラーム世界の公共浴場は、キリスト教圏では途絶したローマ世界の入浴習慣を継承し、さらに独自に発展させた物であることを示しつつ、 浴場の造りや入り方、衛生状況から、詩や物語の中に登場する浴場の話題ももりこまれながら、ヨーロッパや日本など異文化世界の住人が イスラームの浴場をどのように見ていたのか、逆にイスラーム側から日本の入浴文化がどのように見えていたのかを示し、異文化に対する イメージ形成まで示していきます。イスラーム世界では風呂は単なる体を洗う場所ではなく、社交場としての機能を併せ持っていた事が良 くわかる1冊です。

  • 林佳世子「オスマン帝国の時代」(19巻)、1997年

  • 前近代オスマン帝国の官僚機構、軍事制度、税制から農村や都市社会のしくみ、経済活動等を分かりやすくまとめています。 流動的で支配的な価値観がないアナトリアからオスマン帝国が興り、中央集権的な官僚制をもつ強大な国家を作り上げていく 過程と、その内部がどのような仕組みとなっていたのかをコンパクトにまとめています。近代のオスマン帝国については扱って いませんが、民族や宗教によって分断されない集権的国家体制が建国以来徐々に作り上げられてきたオスマン帝国の体制であり、 それが崩れていく時代と言うことで、また別に扱う必要があるようです。また、読んでいる時、オスマン帝国について通常持って いるイメージはだいぶ変える必要があるんだなと気づかされるところがある1冊だと思います。

  • 加藤博「イスラーム世界の危機と改革」(37巻)、1997年

  • 18世紀後半からカリフ制度消滅までの時期を対象に、かつてオスマン帝国とサファヴィー朝があった地域を対象として、近代 イスラム世界の危機と改革についてまとめていきます。内容としては、近代イスラム世界における西洋との接触とそれに対する 対応、イスラム世界における民族主義、イスラム世界の変容といったテーマが扱われています。

    西洋との出会いがオスマン帝国やエジプトで近代化を目指す改革を起こした一方、ワッハーブ運動やシーア派の改革運動など イスラム側の改革についてもふれられていますし、トルコでのオスマン主義、パン=イスラム主義、トルコ民族主義の登場過程と 「民族」主体で独立を進めるバルカン地域、国民主義・アラブ主義・イスラム主義の3つが時代と地域により様々な関わり方をする アラブ地域、イスラム主義主導となったスーダンやマグリブといったように地域ごとの違いが簡潔にまとめられています。また、 イスラム世界が西洋と接触する中で統治理念も宗教や宗派を単位として重視する伝統的なものから、「民族」を重視し政治と 宗教を切り離す国民国家へとかわるなかマイノリティ問題を生み出したり、3大陸の結節点として交易が栄えたこの地域がいつ のまにか近代世界システムの周縁に転落していったり、大都市中心のヒエラルキーがうまれるといった変化がおき、イスラム的 共存システムの崩壊が進んだこと等々、近代イスラム世界の変容については個人的に知らなかったことが多かったので、かなり 参考になりました。

  • 高山博「ヨーロッパとイスラーム世界」(58巻)、2007年

  • ヨーロッパとイスラーム世界の比較(地理的概念のヨーロッパと宗教・文化的概念のイスラーム世界)からはじめ、 ヨーロッパとイスラーム世界の概観、中世に存在した3つの文化圏(イスラム、ラテン・カトリック、ギリシア・正教)、 イベリア半島やシチリア島のように異なる文化圏の接触があった地域の紹介、十字軍、オスマンの登場といったあたりを まとめていきます。そして最後ではグローバル化の進むヨーロッパとイスラームの現代の話を付け加え、現代世界では 従来の国民国家を基盤とした歴史ではなく、地球上の様々な人間集団が築いた社会や人間集団間の交流の変化を、人類の 全体史としてみていこうという事を訴えて終わっています。

    内容的には目新しい内容は正直なところありません(著者の「中世シチリア王国」や「文明の道」第4巻などの著作を読んで いると既にでている内容です)。また、イスラームについて、カリフ制の説明は正直なところこれはまずいとおもいます。 とはいえ、今までのいろいろな成果をわかりやすくまとめた入門書として全体的にはこれでいいような気もします。

  • 飯塚正人「現代イスラーム思想の源流」(69巻)、2008年

  • 現代イスラーム世界をみると、どのような政治体制を目指すのかをとっても政教分離をとるトルコや政教一致をとるサウジアラビア、 同じく政教一致ながら憲法や議会があるイランのように違いがあったり、何が良くて何が悪いのかもよって立つ思想によってかなり 違いがあります。「真のイスラームとは何か、そして政治と社会が真のイスラームを具現しているか」を問い続けてきたイスラーム 思想史のながれをイスラームが成立して間もない頃のハワーリジュ派やシーア派の話から始め、スンナ派政治思想の流れ(シャリーア に基づく当時を求めるか現状を追認するか)、スンナ派法学理論の話(ある時から先例に従うことが優先されるようになり、それが 近代に足かせとなる)といったことをまずまとめています。

    そしてそこから近代に入って伝統的な解釈を批判し、イスラームの原点回帰をはかる動きがおこってくること(ムガル帝国時代のインド で“逸脱”を撲滅しようとする運動が起こり、それが各地に広がり、ワッハーブ派の運動にも関わってくることや、初期イスラームへの 関心が高まりハディース研究が進んだり教団のなかにイスラームの純化を求める者を生み出したこと)をまとめたり、スンナ派より先に シーア派のほうで先例追従を脱したことをまとめ、さらに西洋の衝撃を受けたイスラームでシャリーア遵守を説く者と、伝統的な解釈の 革新をはかる者、事実上の政教分離を目指す者が現れたように、西洋文明(立憲制、議会、科学文明など)とどのように向かい合って いったのかをアフガーニーやアブドゥフなどの思想家を取り上げながら述べていきます。そして20世紀の激動の時代、カリフなき時代の イスラーム思想のながれをまとめていきます。政教分離が広まる中、20世紀後半になると政治原理としてのイスラームの見直しがすすむ ことや、イスラームの優越性・独自性を主張する動きがみられるようになることが述べられていきます。

    前近代のイスラーム思想と近現代イスラーム思想の関係を見るに、先例に従うことが優先されそれ以外の解釈を認めない前者と、伝統的 解釈を批判し新たな主張を行うようになりその結果百家争鳴状態にある後者の関係はまるでカトリックとプロテスタントのような感じが します。また、スンナ派を比べるとどうも色々堅そうなかんじがするシーア派がスンナ派よりも早く先人の解釈の呪縛から解放された事 や、議会や立憲制との適合をうまく諮ることが出来たこと等は読んでいて目から鱗が落ちる思いがしました。

  • 濱田正美「中央アジアのイスラーム」(70巻)、2008年

  • 旧ソ連から独立した諸国や新彊ウイグル自治区といった中央アジアの人々がイスラーム信仰の定式化にどのように寄与したのか、 イスラーム以前の長い歴史がイスラームを受け入れることでどう変わったのか、そしてモンゴルの侵入という出来事と中央アジア のイスラームの関係はどうだったのか、そのようなことを扱っていきます。

    イスラーム信仰の定式化というところでは中央アジア出身者が重要な役割を果たしていたことが、コーランを補う「ハディース」 編纂や神学の確立、教理要綱や哲学といった分野で見られることが具体例を挙げながら説明されていたり、テュルク人への布教 が進むことについて、遊牧民の農耕地帯への侵略のイデオロギーを供給したのがイスラームであったこと、カラハン朝の支配と ウラマーの関係、そして遊牧民の伝承にイスラームの要素が加えられていった様子が示されています。途中でスーフィズムについて の全般的な説明が多くなり、そこでは中央アジアとの関係は前2章と比べると一寸つかみにくいところもありますが、スーフィズム が中央アジアにも広まっていた様子が示されているなど、スーフィズムについて知りたい人は第3章を読むと在る程度わかるように なると思われます。そして、モンゴル侵入以降の中央アジアでは、スーフィーが定住民の社会と遊牧民の君主との仲介を担う 存在になっていったことや、14世紀には遊牧社会と定住社会で違うルール(ヤサとシャリーア)を適用する形で折り合いをつけたり、 モンゴルの改宗をスーフィーが行ったという伝承は後世に付加された要素がある(教団の権威付けのためなど)といったことが 指摘されています。

    オグズ・カガンの話や「元朝秘史」にも登場するアラン・ゴアの話もイスラームの枠の中に吸収されていたり、イスラーム以前から 存在した聖なる場所もイスラームの聖者と結びつけられる形でイスラームに取り込まれていること、遊牧国家の成立がウラマーの 社会的地位向上や権威と権力増大をもたらしたことなど、個々で書いていないことも含め、興味深い話題に満ちています。

  • 中里成章「インドのヒンドゥーとムスリム」(71巻)、2008年

  • ヒンドゥーとイスラームの二大宗教を取り上げ、両者の共生と対立の歴史をたどります。(現在読書中)

  • 真道洋子「イスラームの美術工芸」(76巻)、2004年

  • イスラームと美術というと、モスクや霊廟などの建造物、それらの壁を飾るアラベスク模様とか、写本に書かれた細密画 といったところを思い浮かべる人が多いと思われます。偶像崇拝を認めないイスラム世界において、様々な工芸品が作ら れていきましたが本書ではガラスに焦点を当てて、そこからイスラムと異文化・異宗教との関係、ガラスの広がりと交易、 についても述べていきます。

    本書の最初の方でイスラムの美術工芸の概観、イスラム考古学の説明がなされた後、著者の専門であるガラスに関する話題 へと話が移り、イスラム以前のローマ、ペルシアにおけるガラスの技法がイスラムに引き継がれ、そこから新たな技法や器 形などが生まれていったこと、装飾品と日用品の分化が始まることをまとめます。その後はイスラム世界のガラス製造・販売・ 使用それぞれの場面でキリスト教徒やユダヤ教徒が関わっていたことにふれたり、日本や中国にもイスラム・ガラスが流入し、 そのルートであった中央アジアや、航海、インド洋、東南アジアにおけるガラス発見と交易の広がりについてまとめていきます。 最後にはヨーロッパとイスラムの交流の中でヴェネツィアングラスの製造が始まったり十字軍を通じてイスラムガラス製品が 持ち込まれたこと、19世紀に入ってイスラムガラスが再び脚光を浴び、東洋風の製品が作られたことが述べられていきます。

    イスラム以前に存在したものを取り込んで新しいものをつくりだし、その過程で様々な人や文化圏が関わっているということ が、ガラスを通じてわかりやすくまとめている本で、教科書的な知識としてよく言われる普遍文明・融合文明としてのイスラム という姿を確認することが出来るとおもいます。また、モノを題材に研究するときの姿勢については、単に技術や様式にとらわれ るのでなく、それを作ったり売ったり使ったりした人々の姿にどの程度まで思いをはせることが出来るのかということが指摘 されています。それがあるか無いかで好事家と研究者の違いが生じるのかもしれません。

  • 小松香織「オスマン帝国の近代と海軍」(79巻)、2004年

  • 16世紀のオスマン帝国には、地中海各地から優れた人材が集まりヨーロッパ諸国を圧倒する強力な艦隊がありました。 しかし、オスマン帝国とヨーロッパの力関係が逆転する中で海軍も衰退に向かいます。オスマン帝国でも海軍の改革が 進められ、蒸気船を導入したり、イギリスから技術者や軍事顧問を招くも財政破綻により20年以上封鎖され無為に過ごす 時期を過ごします。そして20世紀に入ると、国民の募金により何とかまかなう状態でありつつも、トルコ国民の艦隊へと 変わっていくことになり、それが後の時代に至るのです。

    本書を読むと、17世紀後半あたりよりオスマン帝国の海軍がギリシア人にかなり依存し、タンジマート期にはイギリスの 技術者・顧問に頼るように外国人への依存が強かったことがわかります。一方、タンジマートですべての人々が法の下で 平等となり、徴兵義務が課せられた非ムスリム(ギリシア人含む)が反発したり、徴兵されたムスリム海兵を訓練する余裕 がなく、海軍衰退にも影響を与えていたこと等を読み取ることができます。

    海軍の人材育成に関わるところで国営の汽船輸送会社がふれられていましたが、本文中に海軍兵学校があったことはふれら れていますが、タンジマートの時代に海軍の人材育成はどうなっていたのか気になりました。自前で人材を育成するので なく、適材適所で人を集めて事足れりとするところはこの国のありかたと何か関係がありそうなのですが。

  • 清水宏祐「イスラーム農書の世界」(85巻)、2007年

  • イスラーム世界の農書(農業関係の技術、農作物の種類などをまとめた本)についてまとめた1冊です。はじめに、 イスラーム世界の農書の歴史をまとめ、その後はペルシア語で書かれた「農業便覧」という本を取り上げ、その内容 を紹介するとともに、乾燥地の農業のあり方や、様々な作物の分布や灌漑農法と天水農法の過程のまとめ、写本の 作成と偽書の登場、実用のありかた(所領経営のために参考にした。また、詩の形で伝えることもあった)といった ことがまとめられています。

    読んでいると、イスラム文明がいろいろな要素の上に成り立っていたこと、イスラム文明がアラビア語を使う普遍文明 であったことを農書を通じて知ることができます。また、農業に関しても地域の特性に合わせ、冬小麦・大麦を天水農法 でつくったり、夏に野菜を灌漑農法で作るような事が行われていたことがわかります。また、所々著者の個人的な経験 (研究会で農書の構成と農学部の講座編成の一致を指摘されたり、集約農業と大規模農業について学校で教わった記憶、 スレイマニエ図書館の猫)が書かれていたり、それが意外におもしろいです。

    イスラム農書の構成と大学の農学部の講座が一緒という話を読むと、ギリシア、ローマ、ペルシア、シリアなどの学問 を総合したイスラムの学問があとで翻訳されてヨーロッパに入り、それが日本に入ってきたという学問の流れを考えさ せられます。

  • 清水和裕「イスラーム史のなかの奴隷」(101巻)、2015年
  • イスラーム世界では数多くの奴隷が使われていたことが知られています。またマムルークが軍事力として用いられ、 政権を樹立したことも知られています。

    本書では、イスラーム世界の奴隷について、コンパクトにまとめています。イスラーム世界で、主人が家族を管理 するのと同じようなかたちで、主人は奴隷を扱っていたこと、奴隷は「半人前」「子ども」としてあつかわれ、 解放されることで一人前になるというものだったということをまとめています。

    また、人種と職務が結びついて考えられており、ある職業にはこの奴隷という具合で人種が選ばれていたということ があったという事も指摘されています。


  • 湯川武「イスラーム社会の知の伝達」(第102巻)、2009年

  • イスラーム世界において、知識はどのようにして伝達されたのか、またどのような知識が伝えられていったのか。また、 イスラーム社会の知はジャーヒリーア時代から16世紀頃に至るまで、どのような物が伝えられてきたのか。そのような ことを扱っている本です。法学、神学といった「伝達の諸学問」と、哲学や諸科学など「理性的諸学問」の発展、 ウラマー層の発展やスーフィーの知の伝達への貢献、モスクやマドラサといった学問を教授する場所についてコンパクト にまとめています。

    マドラサやウラマーといったイスラーム世界で知の伝達に関わる物をピックアップしてまとめながら、イスラーム世界 では知の伝達において誰から学んだのかが重視されることや、イスラーム社会の知識観として、正しい完全な知識は神に 由来し、その伝達に際して、教師は学生に正しく知識を伝え、かつ正しく受け取ったか確認する義務を負うこと、知識を 受け取った側もコーランやハディースを通じて自らの知識を増やす義務があるということが分かるようにまとまっています。 伝達の学問と理性的学問というカテゴリー分けにちょっと違和感を覚える人もいるかもしれませんし(固有の学問と外来の 学問という分け方で覚えている人が多いと思います)、この内容でもっと深くつっこんで欲しいと思う人もいるかもしれ ませんが、まずはこれを読んで大まかな内容を頭に入れてみて、それから参考文献を見ながら色々読んでいくべきだろう と思います。

  • 小名康之「ムガル帝国時代のインド社会」(111巻)、2008年

  • 北インドに建国され、一時期はインド亜大陸の大部分を支配したムガル帝国。中央アジアからやってきた彼らはいかにして 数多くの王国が分立していた中世インド世界を支配下に置き、安定した支配を確立していったのか、そして帝国のしくみは どのような物だったのか、さらにムガル帝国の支配下で経済や文化はどのような展開を見せたのか、そう言った内容を扱う 一冊です。

    90頁弱という分量で中世インド世界の様子からインドへのイスラム教の伝播、そしてムガル帝国の建国と支配の確立の過程 からはじめて中央政府の官庁や貴族・官僚・軍隊の構成、圧倒的多数を占めるヒンドゥー教徒との関係、税制や地方支配の しくみ、さらにはムガル帝国時代の経済発展や都市の建設、社会生活や文化まで扱うというのはかなり大変だと思います。 とはいえ、1冊でムガル帝国について手軽に概観できる貴重な一冊だと思います。

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