黄金伝説展をみる


2016年1月3日、今年最初の博物館巡りとして上野の国立博物館、そして国立西洋美術館へと行ってきました。国立博物館へ 行ったのは、会期の終了が間近に迫った「黄金伝説展」を鑑賞するためです。始まったのは昨年の秋ですが、行こうと思って いるうちに終わってしまっては勿体無いと思い、新年に見に行ってきました。

黄金文明というと、古代エジプトのイメージが強い人が多いと思います。確かに古代エジプトの遺跡から発見された黄金 製品はよく展覧会も開催されて日本に来ていますし、何かと取り上げられる機会は多いです。しかし、古代地中海世界とその 周辺地域にも黄金の遺物は大量に残されています。新石器時代末期のものまで今回は来るということで、実は展覧会が始まる まえから非常に楽しみ にしていました。

展示の構成としては、まず最初に新石器時代末期の黄金製品が発見された遺物の展示があります(そのまえに金羊毛に関係する 伝説を描いた絵画とかありますが、それは省略します)。このとき、順路通りに行ったところ、いきなり次の展示のコーナーの 案内板が出ており、何か見落としたのかと思いましたが、新石器時代のものに関してはそれが発見された墓の様子を復元した ブースに遺物も並べられており、そこの一箇所でまとまっていたために見落としてしまいました。しかし、コーナーとしては 小さいものの、副葬品として黄金を用いた墓が真石器時代末期のドナウ川流域から発見されていたことは恥ずかしながら初めて しりました。「マスター・キートン」ではありませんが、「ドナウ文明」という言葉が一瞬浮かびました。

その次は、古代ギリシア世界の黄金製品のコーナーがありました。このコーナーでは、小型の装身具が数多く展示されていました。 大きさは小さいのですが、かなり精巧な作りのものが多く見られました(ただ、この日の最後のあたりで見たエトルリアの細工の 精巧さでちょっと上書きされてしまったところはなきにしもあらずです)。あと、このコーナーではギリシア神話に関連した絵画 や、クリムトの作品などもちょこちょこと展示されていました。

そのあとには、トラキア人たちの残した黄金製品の展示がありました。それまで見てきたギリシアのものと比べると、かなり大ぶり な作品が目立ちます。それでも、鹿のリュトンなどなど、黄金を用いてかなり精巧な細工を施した製品もありましたし、なかなか 見ごたえがあるコーナーでした。現在もブルガリアのあたりで発掘するとトラキア人の墳墓から副葬品が多数出土しており、そこに 黄金製品も多いそうです。そういった製品がちゃんと保存されていると良いのですが、あまりにも急に発掘をすると単なる宝探しに なってしまう危険もあるので、それは心配ではあります。

そして、古代のエトルリア人およびローマ時代の金細工を扱ったコーナーへむかいます。ここでみたエトルリア人たちの金細工の 精巧さには目を見張るものがあります。古代世界の黄金製品には粒金細工という非常に細かい金の粒をつける装飾技法があり、 今回の展覧会でも古代ギリシア時代のころより粒金細工を施した装飾品は数多く展示されていました。しかし、先に見たギリシア のものもすごいのですが、エトルリア人の細工はそれをはるかに上回る技巧を見せつけるものがありました。粒の大きさが明らか に小さく、より細かいものとなっており、それを綺麗につけて様座な文様や形を作り出しており、 ただただみとれてしまいました。 この技術を現代人が忠実に再現しようとしても、どれだけの手間がかかるのか、正直なところ想像がつきませんでした。粒金細工の 技法の秘密については20世紀前半に明らかにされたそうですが、それが分かったとしても、あの大きさの粒の金を作るだけでも 相当な難事業でしょう。

今回、古代地中海世界の黄金ということで、マケドニアに関係するものが何か来るかなとちょっと期待しました。しかし今回は 対象外だったらしく、特に展示もありませんでした。フィリッポス2世の金貨とか、それこそヴェルギナ王墓の副葬品(骨箱や 王の武具など)を展示してくれたらさらによかったのですが、なかなかに見ごたえのある展覧会でした。もうちょっと早くに 行くべきだったかなとは思いますが、もしもう一度行けるのならまた行きたいと思うような展覧会でした。


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