手に取ってみた本たち 〜ワ行〜


若桑みどり「クアトロ・ラガッツィ」集英社(集英社文庫)、 2008年
イエズス会士ヴァリニャーノの発案により吸収のキリシタン大名が派遣した天正少年使節についての話を中心に、日本にキリスト教が伝え られた時代から、秀吉や徳川家によるキリスト教禁教までの時代を扱います。日本が自分たちと全く異なる価値観を持つ世界に対し開かれて いた時代を描き出しつつ、天正少年使節の4人の出自や彼らの旅、そして帰国してからの事についてもまとめています。その合間に見える著者 の思いや考え方について、あれこれ言う人もいるかもしれませんが、「人間の価値は社会において名前を残す「傑出した」人間になることでは ない。それぞれが自己の信念に生きることである」というところは共感します。

和田春樹「レーニン」山川出版社(世界史リブレット人)、2017年
ロシア革命の指導者レーニンのコンパクトな伝記。生い立ちから死ぬまでの流れはちゃんとおさえられますし、興味 深い題材もいろいろ載っています。ただし、短いとはいえ決して簡単に読めるかというとそうではないような気もします。

和田廣「史料が語るビザンツ世界」山川出版社、2006年
皇帝、宦官、修道士、知識人、大土地所有者、庶民といったビザンツ帝国で暮らした人々について残された同時代史料や アラブ、ロシア、西欧といったビザンツ帝国の隣人たちがビザンツ帝国について残した記述をとりあげ、ビザンツ帝国 およびビザンツ人について示していきます。史料の引用が多数あることに加えて、充実した史料解題がついており、 ビザンツ帝国史について関心がある人は手元に置いておいた方がいいのではないかと思います。

和田光弘「植民地から建国へ シリーズアメリカ合衆国史1」岩波書店(岩波新書)、2019年
現在、世界を主導するアメリカ合衆国は、ルーツをたどるとイギリスからの入植者が作った植民地が独立し、まとまってできあがって いったものでした。本書は、最近の環大西洋世界としてアメリカとヨーロッパの関係をとらえてみていくとともに、植民地時代や独立 戦争、そして独立後のアメリカに関する記憶の歴史などの成果ももりこみながら、先住民が独自の文化を創っていた北米大陸に入植者 が到来して植民地が形成された歴史や、アメリカ合衆国がイギリスの植民地からできあがり、国としてそれなりの形を作り上げていった 時代が扱われています。国歌や国旗、憲法、大統領と言ったものがどのようにして作られてきたのか、それにまつわる様々な伝説的事柄 がどのようにして広まったのか等々、興味深い話題が盛りこまれています。

渡辺和行「ド・ゴール 偉大さへの意志」山川出版社(世界史リブレット 人)、2013年
ド・ゴールというと、フランスの政治家として良く出てくる人物であり、現在でもフランスの空港にその名がつけられていたりする人物です。 世界史的には第2次大戦中の「自由フランス」の話や、第2次大戦後の冷戦構造の中で独自路線を歩み、「多極化」の流れに大きく影響したこと、 五月革命により結果的に退陣に追い込まれたことなどが取り上げられています。

本書はド・ゴールをその時代の中に位置づけようとしてまとめられたド・ゴールについての簡潔な伝記です。第2次大戦中の彼の活動について、 教科書的な理解よりも深い内容が取り上げられています。意外と知らないことが多かったのですが、勉強になりました。

渡辺金一「中世ローマ帝国」岩波書店(岩波新書)、1980年
  中世ヨーロッパ史というと、西ヨーロッパ中心のものの見方になりがちですが、果たしてそれでよいのでしょうか。中世の地中海世界 に栄えたビザンツ帝国の世界観や皇帝観についてまとめられた部分と、ゲルマンとアラブの比較史的記述、そしてシリアで発掘された 農園の遺跡から、当時の農園の変遷についての歴史のまとめからなっています。ビザンツ帝国の世界認識はまるで中国を中心にした 冊封体制を彷彿させるものがあります。しかしそれにとどまらず、ヨーロッパにおける民族移動、分布についても扱うように広い視野 のもとでまとめられています。また公式行事におけるビザンツ皇帝の自称や他称からビザンツの政治神学について論じた部分からも ビザンツとイスラム、西ヨーロッパの比較という視点がみられます。中心テーマはビザンツ帝国であっても、決して一つの国の歴史に とどまらず、より広い視野を持って同時代の他地域との比較を念頭に置いてまとめられており、非常に広がりのある内容を持っている 本であるとおもいます。

渡辺金一「コンスタンティノープル千年 革命劇場」岩波書店(岩波新書)、 1985 年
ビザンツ帝国における皇帝選出・交代の様子に、当時の人々の国家感覚をみてとり、皇帝による政治体制と皇帝個人を明確に分けていた 様子や、元老院、軍隊、市民が皇帝選出において重要な役割を果たしていたと言うことを論じていきます。4世紀以降、長きにわたって この3つの集団が皇帝選出において重要な役割を果たしていたということが著者の主張ですが、そう言った部分よりもバシレイオス1世が 皇帝に上り詰めるまでの過程をたどった章が面白いです。また、後書き部分に掲載されているビザンツにおける官僚心得?のような文章は 今でもそうだと思う部分が結構あります。タイトルを見て社会史の本かと思って読むと肩すかしを食いますが…。

渡辺信一郎「増補 天空の玉座」法藏館(法蔵館文庫)、2024年
古代中国の専制政治がどのようにして成り立っていたのか、帝国としての枠組みはどうなのか。本書では会議の場である朝議がどのように行われ、 どこで行われていたのかといったことや、元旦に皇帝臨席で行われる元会儀礼でどのようなことが行われているのか、会議と儀式を分析しながら 古代中国の専制政治について描いています。意志決定は皇帝が行うが、そのための判断材料を得るため様々な会議が行われていること、また会議 の場所も時代により動いていること、君臣関係の更新や外国との関係を示す場として元旦の儀礼が行われ,それがどのように変わっていくのか、 会議と儀礼からみた専制政治のあり方が示されています。

渡邊大門「戦国誕生  中世日本が終焉するとき」講談社(現代新書)、 2011年
日本の歴史を見ていくと、応仁の乱以降、下克上の戦国時代に突入していくということは流れとして大体押さえられていると思います。 では、戦国時代へと突入していくに際して、どのような変化が起きていたのか、将軍家や幕府、守護大名、そして朝廷において何がなくなり、 何か新しいことが起きたのか、変化がどのような形で起きたのかを描いていきます。

無気力な文化人と思っていた足利義政が政治にたいし意外と積極的に関わっていたことがわかったり、室町時代の守護代台頭のプロセスが まとめられていたりと、なかなか興味深い内容を含んでいます。本書の姿勢としては、「形式」から「実力」へという移行がおきたという のが戦国時代のはじまりと捉えているようですが、その辺はもともと「形式」があったというより、なんとかして「実力」をおさえるべく 「形式」にこだわっていたような印象もあるのですが…。
渡邊大門「大坂落城  戦国終焉の舞台」角川書店(角川選書)、2012年
大坂の陣というと、真田幸村の大活躍など合戦中の個別の戦い話のこととか、戦略がどうとか戦術がこうとかいった内容は 良く話題になります。しかし、そこに到るまでの過程をきちんと追ったこの本はそんな事は扱っていません。

戦国時代が終焉に向かう中、日本の大名を臣従させ武家の棟梁としてまとめ上げようとする徳川家康が、豊臣氏を臣従させ ようとしてあの手この手を駆使し、最終的にこのような戦いにまで到った、その過程を信頼性の高い史料を基にたどって いきます。派手さはないけれど面白い一冊です。一度頂点にまで上り詰めると、誰かに従うということはしにくいのかも しれませんが、何とかならなかったのかなあという気がしてきます。そして、徳川家康が単なる「狸親父」的な怖さとは 違う恐ろしさ・すごさを持っていた事が非常によく分かるのではないかと。

渡邊大門「信長政権  本能寺の変にその正体を見る」河出書房新社(河出ブッ クス)、2013年
本能寺の変というと、色々な人達が様々な説を展開していますし、明智光秀についてもある一定のイメージができあがっています。 しかし世間一般に広まったイメージや、様々な説が、どうも信用性の低い史料に基づいて書かれているとしたらどうなるか。

本書では明道津ひでがどのような人物であったのかという所から始まり、明智光秀が本能寺の変を起こした原因として取り上げられる ことがある四国攻略との関係をさぐり、さらに信長と家臣達がどのような関係を結んでいたのか、黒幕視される足利義昭や朝廷と信長 の関係は本当のところどうで、はたして黒幕となりうるものだったのか、こうしたことを解き明かしていきます。

渡邊大門「黒田官兵 衛・長政親子の野望 もう一つの関ヶ原」角川学芸出版 (角川選書)、2013年
2014年の大河ドラマの主人公になった黒田官兵衛と息子長政について、特に関ヶ原合戦前後の黒田氏の動きと、関ヶ原の合戦と連動 して日本の各地で起きた戦いとの関係をメインに書かれた一冊です。関ヶ原と同時期に九州において黒田官兵衛が領土拡大のために 戦っていたこと、関ヶ原合戦の前に黒田長政が毛利氏(毛利、吉川、小早川)を味方につけるべく動いていたこと、そのあたりが まとまっています。

渡邊大門「黒田官兵衛  作られた軍師像」講談社(現代新書)、2013年
黒田官兵衛についてのコンパクトなサイズにまとめた伝記です。しかしここでは官兵衛についての超人的な活躍をかくのでなく、 黒田官兵衛の実像をにせまっていきます。これとあわせて同じ著者による別作品を読むと、2014年の大河ドラマも 面白くみられるのではないでしょうか。

渡邊大門「牢人たちの 戦国時代」平凡社(平凡社新書)、2014年
牢人というと、大坂の陣のときに豊臣型に大勢雇われていたといった話は良く出てきます。それに限らず、大名が滅びたとき には多くの牢人が出現していますが、そんな牢人達についてまとめた一冊です。山中鹿之助、宮本武蔵と言った人々がでてきますし、 宇喜多秀家や長宗我部盛親のように取りつぶされてしまった大名たちの行く末も扱われています。

渡部哲朗「バスクとバスク人」平凡社(平凡社新書)、2004年
スペインとフランスの国境地帯に存在するバスク地方は、歴史的に見ても独自の社会を作り上げて発展し、バスク出身の人々 はバスクから外の世界へと出て活発な活動を見せていました。またフランコ独裁政権の時代に弾圧に抗しつつ独立運動を組織 しています。そのようなバスク地方の歴史、民族、文化、言語などをまとめたバスクの概説書です。バスクというと、最近で ではスペインでテロを行っている集団がいると行った程度の印象しか持っていないひともいるかもしれませんが、これを読むと バスクの様々な面が分かってくると思われます。

渡邉義浩「魏志倭人伝の謎を解く 三国志から見る邪馬台国」中央公論新社 (中公新書)、2012年
邪馬台国について語る上で欠かせない史料「魏志倭人伝」は陳寿の「三国志」の一部分です。そのため、本書において「魏志倭人伝」 における邪馬台国の描写や位置の表現が何故そのように書かれたのかということを、「三国志」が書かれた背景から迫っていきます。 巻末には「魏志倭人伝」の訳も付いています。

エドワード・J・ワッツ(中西恭子訳)「ヒュパティア 後期ローマの女性知 識人」白水社、2021年
後期ローマ帝国、キリスト教が公認され、国教となっていく時期、アレクサンドリアで活躍した女性哲学者ヒュパティア、彼女はかなり ショッキングな死をむかえますが、そのことに対し後世ではさまざまな意味づけがなされていきました。また彼女の生き方も後世の人は さまざまな取り方をしていました。なんとなく何かの象徴、党派の旗印のように使われる彼女ですが、本書では彼女がどのような生涯 をおくったのか、それをまず探求していきます。そのうえで後世における受容を描き出します。

ウィリアム・モンゴメリ・ワット(三木亘訳)「地中海世界のイスラム ヨー ロッパと の出会い」筑摩書房(筑摩学芸文庫)、2008年
イスラムの勢力拡大は地中海方面にもおよび、イベリア半島やシチリア島はイスラムの支配下に入りました。そして、イスラムを介して ヨーロッパの人々は洗練された文化的生活、高度に発達した技術、そしてヨーロッパでは余りみられなくなっていた西洋の古典文献とそこに 書かれた思想や学芸に接し、そのことがヨーロッパの発展に大きく貢献した事はよく知られています。本書はそう言う内容をコンパクトに まとめています。原著はかなり昔の本のため、今読むと世界史の参考書レベルでも普通に出ているようなことが結構多く、新味には欠ける感じ もしますが、それなりに面白いと思います。

マイケル・ワート(野口良平訳)「明治維新の敗者たち 小栗上野介をめぐる 記憶と歴史」みすず書房、2019年
小栗上野介というと、昔テレビでやっていた徳川埋蔵金で知っている人もいるかもしれませんし、幕末について興味があると、幕府側の 官吏として悪役的な立場で捉えている人もいるかもしれません。いっぽうで彼が行ったことにはその後の日本の歩んだ道を見直したとき、 極めて先見の明にとんだ事柄が見られることから、近代日本の進むべき道を示した政治家として評価する人もいるでしょう。本書では、 明治から現代に至るまでの小栗上野介という一幕臣の評価の変遷と、小栗を巡る記憶を掘り起こし、顕彰し、語り継ごうとした人々の 歴史がえがかれています。

ウェイク・ワン(小竹由美子訳)「ケミストリー」新潮社(クレストブック ス)、2019年
主人公は理系の博士課程の院生、しかし研究は正直行き詰まり、同棲している彼氏との関係もプロポーズを受けながらなかなか結婚 に踏み切れずこちらも微妙な感じに。そして親に対してドロップアウトするとは親の期待を背負っていることもあってなかなかいえず。 色々なことに行き詰まっている主人公の物語です。彼女の過去や今思っていること、考えていることなどが短文でつなげられ、その 少々ぶつ切りのようなぶっきらぼうな感じに魅力を感じる人もいるかと思います。

王聡威(倉本知明訳)「ここにいる」白水社、2018年
実際に大阪で起きた事件に触発されて書かれた小説を謳い文句にした一冊。40前後の女性が、夫の暴力に耐えかね離婚届を置いて、 子供を連れて家を飛び出た。いつか呼びに来るに違いないという彼女の思いとは裏腹に、夫は別の生活を継続。また、頼りにしていた 元彼からも思ったような対応はなく、徐々に追い詰められていく。主人公とその周囲の人々の語りが重なり合って展開するという構成 ですが、主人公が自分について語る部分と、周りから見えている主人公の姿があまりにも違う。そして、終盤になって元彼が放った 彼女についての言葉は、実に冷酷。優しいふりして冷酷な大人って恐ろしいとおもう。それにしても、主人公は自意識過剰・被害妄想・ 強烈な承認要求の塊といったかんじですが、読んでいていろいろと突き刺さるものがある。そして、死んだ子供が可哀想で仕方ない、、、。

マリー・ンディアイ(小野正嗣訳)「ロジー・カルプ」早川書房、2010年
グアドループに降り立ったロジー・カルプ。彼女は子連れで妊娠した状態ですが、兄を頼ってこの島へやってきます。しかし彼女たちを 迎えにやってきたのは兄ではなく、黒人のラグランという青年でした。そこから彼女の新しい生活が始まるのですが、グアドループを 舞台とするこの物語、登場する人々の多くがどこかしらゆがんだ人々です。そしてその中にはロジーも含まれており、自分の子どもが 病気なのにそれを放置して映画を見に行ったりしてしまいます。とにかく登場人物に一人もまともな人がいない(強いて言えばラグランは まともな部類に入るが、何故かロジーに気があったりする…)、そんな世界を描いていきます。カルプの母親の変貌ぶり(本当に若返って いるんじゃないか?)はちょっとびっくり。

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